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『女神のバグノート』7
初配信から数日が経った。
あの日の驚異的な視聴者数の伸びは、その後も止まることを知らなかった。
「お姉さま! どうしよう!」
妹はパソコンの画面を指差して、半泣き状態になっていた。
私はその画面を覗き込むと、そこには信じられない数字が並んでいた。
チャンネル登録者数:250,000人
「……これ、増えすぎじゃない?」
「そうなの! だって私、まだ二回しか配信してないのに!!」
妹は椅子に倒れ込んで、頭を抱えた。
「なんでこんなことになってるの!?」
「たぶん……あの日のバグの影響がまだ続いてるのね。」
私は冷静に考える。
初配信の日、世界中の人が妹の配信を“偶然”見てしまった。あの異常な視聴者数の急増は、一時的なものだと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「しかも……見て、お姉さま。」
妹がマウスを動かし、とある動画を開く。そこには、妹の初配信の切り抜きが大量にアップされていた。
『謎の新人VTuber、世界中のおすすめに現れる!?』
『バグ探偵しすたー、まさに名前通りの“バグ”を引き起こす』
『この子、バグってるけど可愛いwww』
「……これは、完全に広まってるわね。」
私は少し呆れながらも、妹の人気の爆発ぶりに驚きを隠せなかった。
「このままじゃ、次の配信も大変なことになるんじゃ……?」
妹の声には明らかな動揺があった。
「お姉さま、私、次の配信どうすればいいの!?」
「……もう、やるしかないんじゃない?」
「でも! 私、そんなに多くの人の前で喋るなんて無理だよ!」
妹は椅子に沈み込み、ぐったりとした表情で頭を抱えた。
「もしかして、もうVTuberやめたほうがいいのかな……?」
「それは、あなたが決めることよ。」
私は静かに言った。
「でも、せっかくここまで来たのよ? せっかく自分で『バグ探偵しすたー』を作り上げて、みんなにバグの話をするって決めたんでしょう?」
「……うん。」
妹は膝を抱え込みながら、小さく頷いた。
「確かに……楽しかった。初配信はびっくりしたけど、たくさんの人が『面白い!』って言ってくれたし……。」
「だったら、続けてみたら? あなたが楽しいと思えるなら、それが一番よ。」
私は優しく微笑む。
妹は少しの間考え込んでいたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「……うん! じゃあ、次の配信も頑張る!」
「いいわね。その調子よ。」
「でも……やっぱり怖いなぁ。」
妹は苦笑いしながら画面を見つめる。
「よし! じゃあ、次の配信の準備しなきゃ!」
妹は気合を入れ直し、次の配信に向けて動き出した。