ショパン「告別」をここくんに
ここくんは、2020年7月7日、3年1か月の命を閉じました。
あのとき・・夜も暑い夏のはじまり
マウソックは、2年前の暑い夏の夜、タクシーに乗ってコンクリートジャングルの中を流れる東京の一般道を走っていました。
夜景が華やかに流れていく外を眺めながら、静かな車内で
膝の上においた丸い荷物をひたすらに撫でていました。
膝の上には、紙袋に入ったここくんたちがいました。
かさかさと動く音
きっとしあわせになる。うちにくれば。
美しい夜の街路を走り抜けながら、純粋に、マウソックはマウソックを信じきっていました。
信じすぎた先にしあわせはなかった
マウソックがあれほど願ったしあわせは、かないませんでした。
ここくんは、亡くなる前の1週間、とても苦しそうでした。
温めていても、体温は低下したまま、ほぼ動かず、ときどき震えをみせながらやっと歩いていました。
そして、七夕の朝、チビ君が亡くなったあとを追いかけるように
マウソックから旅たちました。
頑張った体は、やせていました。そして、下胸のあたり(胃の付近)から
不自然に骨らしきものが突き出ていたのを確認しました。
マウソックにどんな力もありませんでした。頑張ったここくんを手にとり、そっと撫でました。何度も何度も、ただ、撫でていました。
しあわせとはなんなのだろう。我が家に来たらしあわせ、と、連れてきたあの日から2年。そして、これが、辿り着いたしあわせということだったのか、固く目を閉じたここくんを見つめていた、そのとき、すっとひとすじの思考が脳の奥で走りました。
わたしがあげられるしあわせは、ない。しあわせは、思った以上に遠くはるか彼方できらきらしている。その強い輝きは、自分の近くで輝いていると勘違いをしたくらい眩しいものなのだと。
bon voyage
翌日、斎場に行く途中、一度締めたお棺の蓋を開けました。
偶然に上がった雨上がりの空の下で、
眠るここくんに降る、さわやかな風、優しい光
天国はどんなところか、わかりません。
でも、我が家に来ればしあわせになると思い込んでいたマウソックから
本当の幸せな場所へ向かっていったのだと
今度こそしあわせになってほしい
マウソックは、静かにつぶやきました。
「ありがとう、天国に必ずいくんだよ。よい旅を、ね。」
そして、そっとお棺の蓋を閉めました。
ショパン「告別」
亡くなって2週間が過ぎた頃、小さな骨壺のある場所に飾っていたトルコキキョウとカスミソウが役割を終えていくかのように枯れ始めました。
天国にきっと着いたんだね。
・・・かなわなかった亡き鼠のしあわせを願ひ、ショパン「告別」を聴く・・・