あなたとの約束
ずっと一緒に生きてきた。
私のそばからいなくなる日が来るなんて、想像もできない。
それほど長い時間が経っている。
十代。
友だち、ライバル、そしてかけがえのない恋人だった。
二十代。
それぞれの生活がすれ違う社会人。
人生設計の中にお互いがいることが想像できなくて、別々の道を歩くことを何となく考えていた。
何度も何度も話し合って、喧嘩して、泣いて。
傷ついて、傷つけて、ボロボロになっていた気がする。
それでも別れることができなった。
何かを犠牲にしても、それでも一緒にいることを選んだ。
そこには私なりの覚悟があった。
そしてあなたにも覚悟があったはず。
そして私たちは家族になった。
恋人から父親と母親になり、今までになかった関係性に戸惑いながら
小さな宝物を一生懸命守っていた。
三十代。
小さな宝物がどんどん大きくなる。
あなたは家庭を守るために一生懸命だった。
私は、毎日が一年生。
母親として生きることに必死だった。
すれ違っていく日々の中で、お互いをつなぎとめていたのは何だったのだろう。
お互いを思う優しい愛だったのかもしれない。
もう恋人には戻ることができないけれど、あの頃とは違う温かい想いがあった。
四十代。
毎日に忙殺される日々。
相変わらず帰宅の遅いあなた。
殆ど話す時間も無くなった気がしていた。
それが当然のようになり、一人で子育てをしているような気持ちになる。
いつか私の手元から離れていく子どもとの時間は限りがあるから、子どもとの時間を大事にしたかった。
全ての時間軸は子どもと共にあったような気がする。
五十代。
とうとうやってきた。
子どもが私の手を離れていく。
その寂しさをどうしても拭うことはできずにいた。
あなたはそんな私のことを、何も言わずに黙って見守っていてくれたよね。
私は私の毎日を生きていかなければならない。
当たり前のことなのに、とても難しく思えた。
二十年間、自分のことを考えたことがななかったから。
家族の好きなものを作り、家族の楽しめる場所に行く。
私が本当にしたかったことは何?
分からない…。
そして見つけた私の答えは、子どもに恥じないような毎日を送ることだった。
子どもが家を出て、自分の道を歩き始め、私たちの関係がまた変わった。
家族のカタチが変わったといった方がいいかもしれない。
初めは慣れなった夫婦の時間。
それも時間の経過とともに、恋人だった頃とは違う時間を積み重ねたお喋りができるようになってきたような気がする。
これからの生き方。
二人の時間をどう楽しむか。
どんなふうに歳を重ねていくか。
第二の人生設計。
そして、いずれ迎える別れのとき。
本当は考えられない。
私のそばからあなたがいなくなるときが来るなんて。
でもいつかそんな瞬間が必ず来る。
私が先にいなくなるかもしれないし。
そうなったとしても、あなたはきっと大丈夫。
前を向いて歩ける人だから。
でも、私が後に残ったときは。
私の魂がこの世の中からなくなるその日が来たら、迎えに来ていてね。
私が不安にならないように。
行き先を間違えないように。
そしてまた一緒に過ごせるように。
ずっと一緒にいられるように。
そこまで迎えに来てね。
約束よ。
死んでからも一緒にいられたら幸せだよな。
そういって笑うあなたに、「きっと忘れてたって言って、来てくれないでしょ。」と返す私。
もしあなたが先にいなくなったら、長い時間を過ごしてきた思い出をひとつずつ思い返して毎日を生きよう。
まだまだ想い出を作る股間はあるから。
少し辛くて切ない最後のあなたとの約束。