見出し画像

わんこと私のやさしい時間

言葉は時に優しい。
そして、時には誰の心にも響かない。

言葉を持っているのは人間だけだ。
でも、そう思っているのもまた人間だけかもしれない。
イルカは超音波でコミュニケーションをとっているのだから、
虫たちだって何かの方法で生きていることを楽しんでいて欲しい。

悲しい時、その感情は涙となって私の頬をつたう。
ただ、孤独を身体全部で受け止めるために、独りで戦うしかない。
ほとんどの場合、それが当たり前だ。
人に何かを言ってもらっても、立ち直ろうとしても、本当の強さは
自分の中にしか存在しない。
解っていても、涙は私の頬をつたう。
そんな時、私に背中をピッタリとくっつけてくる暖かく重たい
存在がいる。
私と共に生活する大きな黒い”犬”とは言いたくない友達だ。

彼女は、何も話さない。
当たり前だといわれそうだが、話さず語りかけてくる。
私を真っ直ぐに見つめ、ただそばにいる。
「大丈夫だよ」といわんばかりに。
何も大丈夫じゃないのに。
でも、なぜだろう。
人の言葉を素直に聞き入れる感情は乏しい私が、
薄っぺらい励ましといわれる言葉なんて要らない私が、
彼女が背中を向けて寄りかかってくるだけで
心を落ち着けることができる。
進めなくても、ここにいていいような気がしてくる。

私は人間が嫌いなんじゃない。
誰もが生きていく上で身に着けた処世術に嫌気がさすだけだ。
本音と建て前。
本当に思っていることを口にしていたら、
友達どころか知り合いさえもいなくなるだろう。
にっこり笑って、はらわた煮えくりかえる。
それが社会生活を営むということ。

じゃあ、一体何を信じればいいのか?
結局、ジブンしかない。
それなのに、肝心かなめの自分さえもが分からなくなる時がある。

自分の心の中に芽生えた感情をどうにかするためには
他人の言葉は必要で、不必要だ。
そして感情のたっぷり入った暖かい体温は何にも代えがたい
強さになる。

これからの回答が見つからなくても。
何ひとつ解決なんてできなくても。
今の自分が大嫌いでも。

もしかしたら、誰かの温かい言葉が心に響く瞬間があるのかもしれない。
真っ黒な彼女は、そう私に語ってくれる。



いいなと思ったら応援しよう!