フリーランス新法って何? 問題点もあわせて徹底解説します
11月1日、いよいよフリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されます。
これまでフリーランスは非常に弱い立場にあったのですが、少し状況は変わるのでしょうか。
今回は、フリーランス新法をわかりやすく解説しつつ、フリーランスの実態や課題、メリットやデメリットについてお伝えします。
フリーランス新法は、フリーランスが安心して働けるようにする法律
フリーランス新法に該当する「フリーランス」は、事業者から業務委託を受ける人
そもそもフリーランス新法は、誰を対象にしているのでしょうか。
この法律で「フリーランス」と定義されるのは、
【事業者から業務委託を受けて働き、従業員を使っていない人】
です。
普段はサラリーマンで、土日に副業をしているという人も、副業している部分(土日に行っている仕事)が法律の対象になります。
しかし、消費者を相手に取引を行う人は、この法律の「フリーランス」には該当しません。
例えば……
ということです。
一般的には、消費者を相手に商売をする人も「フリーランス」ですが、この法律では該当しない人も出てくるのです。
私はフリーランスのライターですが、主に出版社から仕事を受注していますので、フリーランス新法の対象となります。
また、フリーランスがフリーランスになんらかの業務を発注した際も、法律の対象になります。
フリーランスに発注する事業者が守らなければならない7つのこと
フリーランス法は、フリーランスが安心して働けるよう、取引の適正化や就業環境の整備を目的にしています。そのため、フリーランスに仕事を発注する事業者に、いくつかの義務が課せられます。
①書面などにおいて、取引条件を明示する
フリーランスに業務委託をする場合、口頭での明示(口約束)はNG。書面またはメールなどで、給付内容や報酬の額、支払い期日など取引条件を明確に記す必要があります。
②支払い期日を設定し、期日内で支払いを行う
報酬の支払期日は、
【発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内】で定め、一度決めた期日までに支払う。
③7つの禁止行為をしてはならない
・受領拒否
・報酬の減額(フリーランス側に非がある場合を除く)
・返品
・買いたたき
・購入・利用の強制(仕事に必要だからと言って、何かを買わせるなどをしない)
・不当な経済上の利益の提供要請(お金やサービスを求めることをしない)
・不当な給付内容の変更・やり直し(お金を支払わずに勝手に注文の内容を変更したり、受領後にやり直しをさせない)
④募集情報の的確表示
募集情報を提供する際には、誤解を生じさせる表示をしてはならず、募集情報を正確かつ最新の内容にする。
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合、フリーランスの申し出に応じて、育児や介護などと業務を両立できるように配慮する。6か月未満の場合でも配慮するよう努力する。
例)打ち合わせや業務をオンラインにするなど
⑥ハラスメント対策をする
フリーランス就業環境の整備のため、従業員にハラスメント防止研修など、必要な措置を取るようにする。
⑦中途解除等の事前予告・理由開示をする
フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合で、契約を解除する場合、少なくとも30日前までに、①書面②ファクシミリ③電子メールなどでその旨を予告する。
フリーランス新法ができたことで、「法律でこのように定められていますので」と言えるようになるのは、フリーランスにとってとても大きなことです。
フリーランスの6割以上が「買いたたき」を経験している
公正取引委員会はフリーランス新法の施行を前に、フリーランスが「買いたたき」の経験があるかを調査し、10月に結果を公表しました。買いたたきとは、発注事業者がフリーランスに大して報酬を通常より著しく低く設定することです。
その結果、報酬額について発注事業者側の80%近くが「十分に協議を行い決定した」と答えたのに対し、「十分に協議を行わず、一方的に決定されたことがある」や「十分に協議を行い決定されたことが無い」と答えたフリーランスの割合は、67.1%にのぼりました。
ちなみに買いたたきの割合としては、俳優やモデル、美容師やエステなどの「生活関連サービス業、娯楽業」が73.9%、映像・音楽制作やウェブサイトの作成、ソフトウェア開発などの「情報通信業」が73.5%、「建設業」が72.7%となっています。
わたし自身は買いたたきの経験はないものの、報酬を勝手に減額された経験はたくさんあります。それも、あらかじめこちらが金額の見積もりを出しているにも関わらず、なんだかんだと理由をつけられて減額されました。
フリーランス新法は小さなはじめの一歩
業界によって商習慣が異なる
フリーランスというと一般的には、わたしのようなライター、カメラマン、編集者、エンジニアなどがイメージしやすいかもしれませんね。
しかし、世の中の至るところにフリーランスはいます。例えば美容師。有名な『ALBUM』の美容師は、フリーランスとして業務委託を受けていることが多いです(売上の数十パーセントをもらう形)。建築業の一人親方もフリーランスの働き方ですし、ブランドの広報、あるいは接客にもフリーランスがいます。
そして、業界によって商習慣が全然違う。
例えば出版業界に関しては、出版社がフリーランスに業務委託をする際に、契約書を取り交わすということはほとんどしません。
理由はいろいろありますが、こういうクリエイティブ業界というのは、何回かフリーランスを使ってみて、よければその後も使う、イマイチなら切る……と、非常に流動性が高いからです。
仕事も口約束がほとんどですし、昔はギャラすら明示しない編集者もいました(わたしはこういう人とは仕事をしないようにしていましたが)。
ギャラも、単行本の場合、納品から6か月後、7か月後に振り込まれるというのも珍しくありません。
会社が潰れたらどうなるのか……。
実際、フリーランス新法の施行後に出版社がどのような対応をするか、わたしもよくわかりません。同様に、フリーランス新法が「ウチの業界には馴染まないのでは」と感じる人も多いでしょう。
商習慣を理由に、法律を守らなくていいのだろうか
ただし、馴染まないからといって、いつまでも法律を守らないのはコンプラ的にいかがでしょうか。
出版業界であれば、例えば何回か使ってみていいなと思ったフリーランスや、いつも頼んでいるフリーランスには契約書を取り交わす。
単行本やプロジェクトなど、ある程度期限が決まっているものは、その仕事単位でいいので契約書を取り交わす。そのように出版社は努力できませんか。
出版流通における独特の事情があるとはいえ、報酬の支払いを半年以上待たせるのは、フリーランス法の違反になります(公取の担当者談)。
立場の弱いフリーランスを保護しようという法律なのだから、フリーランスなしに成り立たないような業界は、真剣に向き合っていただきたいと考えます。
また、フリーランスを保護する法整備がまだまだ途上であるにも関わらず、しかもインボイスも強行しておいて、「多様な働き方ガー」と言う政府には、怒りしか感じません(ガーの使い方、間違ってますね?)。
つまり、政府が「多様な働き方」を唱えるにはウラがあるわけですが、それはまたの機会に。
フリーランス新法は、ほんとうに小さな小さなはじめの一歩。だけど、これからの道のりはまだまだ長い。一人のフリーランスとしてそう感じました。