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乙姫は、国民年金です。

乙姫は、国民年金です(術式開示)。

あの日本のもっとも偉大な発明を、国民の二分の一は使ったことがあるだろう。

乙姫。
なんとも粋で、ちょっと腹の立つ名前。

乙じゃないねん、排便は。

排便って、小便と大便かと思ったら大便だけなんですね。

じゃあなんだろ、えっと、お花摘み。
乙だなあ。

なんにしても、あの乙姫とかいうやつ。
その実、そんなに意味はないのである。

というか数日前まで、僕はあれのことを、排便表明だと思っていた。
違うか、お花摘み宣言。

だからこそ、使うことを憚っていたのである。

だって恥ずかしいじゃない。

苦しいじゃない。

想像して見なさいよ。マダムが乙姫起動する?

なんかしてなさそうじゃない? コミカルすぎ。

川のせせらぎ。風のそよぎ、羊のいななきにハイジの歓声。
なんか違う感じしない?

そう、マダムは乙姫を使わない。

じゃあどうするかって?

覚悟を決めて、1、2、3でひょうといくのよ。

違うか。
違う気がして来た。
マダムは排便しないか……

多分マダムは産まれたころに全ての排便を済ませてあるのよね。
まさにそれはキリストがその原罪を生まれながらに背負っているように。

違うか、ごめん。

プライベートまですべてを曖昧にしてはいけないと思う。

でもさ、使わないことに云々語るのはズルいかな、って思った。

そう、えらいから。

小さいトイレで、他にマダムもいない。

これなら気兼ねなく乙姫使えるかなって。

押したわ。私。
25秒間流れる自然音。
些か音質の劣化した川のせせらぎに、鳥の鳴き声。

単体で聞けばまあ、許せる。

でもここはトイレ。超個人的プライベートな場所。

「排便なう」ってツイートしている気分。
(※執筆現在、旧TwitterはXで、ユーザーのおよそ9.1%がXと呼んでいます*1)https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2281.html

うぅ、苦しい。

しかも全然かき消されへん。
なんやあこれ、
流石のマダムも関西弁。

っていうか、ノイズキャンセリングの流行っている昨今だ。

いい感じに音波ぶつけてどうにかできないのか、どうせなら。

無理だろうなあ。日本にどのくらいトイレがあると思っている。

日本の世帯数は2023年の段階で6026万世帯*2。
そして、100世帯当たりの温水洗浄便座保有数量は116台となっている*3。
つまり、単純計算で7003万のトイレが日本の一般家庭に存在するわけだ。
それに、公共施設や商業施設を加えたらすぐに億を超える。
億越えのトイレ……

それだけの量にノイキャンなんて……

日本ならいずれやりそう。

いいよ。やって。

その時、トイレに非常な音が響いた。
なんと、この個室数2のトイレに、マダムが入ってきたのだ。
戦慄する、僕。

なにせ僕はお花摘み宣言の真っ最中なのだ。
恥ずかしいことと言ったら、この上ない。

そして、隣の個室の閉まる音がする。
心情、察するには余りある。我がことながら。

終わった、そう考えていると、隣からも乙姫が聞こえてきた。
歪な自然音がシンクロナイズドして、トイレに響く。

まるでそれは輪唱のように、触れては離れ、手を繋いでは震えて。

そして、まあ、音は聞こえる、と。

いやそういうものだから。

仕方ないから。

そう思った時、突如として僕は心の変化に気が付く。
恥ずかしく、ない。

これは同じお花摘み宣言を共有したものの、共鳴だった。

これは領土不可侵の条約だ。
不可犯おかすべからず不可触ふれるべからず

そうして立ち現れる、得も言われぬ安心感。

そうか、これは社会参画だったのだ。

国民年金の金額は、年々増額している。

それは当時の経済状況から考えなければならないことだが、額面だけ見ても平成元年から令和5年まで、およそ2倍の金額となっている*4

年金額は年を経てもそこまで変わっていないが*5、まあ、正直納入したくない。

将来返ってくるとも知れないのだ。それなのに、毎月の稼ぎいくばくもない状態で、16520円はあまりにも……

つまり、これは社会参画なのだ。

「年金、払っていますよ」、という術式なのだ。

社会に参加し、利益を享受するものとして、人付き合いをする人格として、最低限の。

だから払う。

正直馬鹿らしいと思うが、マダムなら払う(確信)。

よって、ここで一つのことが言える。

乙姫は、国民年金です(術式効果の底上げ)。

願わくば、日本が更なる発展をすることを。

具体的には、夜道に一人で散歩できる国であることを。

駄菓子屋で子供がぼったくられない国であることを。

一日のどこかで創作や芸術に時間を割ける国であることを。

他者を虐げないで済むほどに衣食住足りている国であることを。

マダムは切に願うのである。
まだマダムじゃないけど。

ストリートミュージシャンに小銭を投げつつ、乙姫を響かせるのです。




参考文献です。

*1:MMD研究所(2023)「「X」と呼んでいる人は9.1%、「Twitter」と呼んでいる人は67.7% X有料化に関して反対は86.7%」X(旧Twitter)に関する調査より
*2:総務省(2023)『住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和5年1月1日現在)』
*3:内閣府(2023)『消費動向調査(令和5(2023)年8月実施分)調査結果の要点』
*4:日本年金機構「国民年金の変遷」
*5:内閣府(2023)「年金額・保険料の推移」『令和5年度版 厚生労働白書』

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