へんなひとたち〜トマトが出会ったハリウッドの個性豊かな人たち〜その2(from.TOMATO)
ハリウッド在住の友人トマトちゃんからのお話。
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数年前、まだポンチョの彼女は居なかったが
お散歩中に毎日家の前で会うのが
ダニエル氏であった。
ダニエル氏夫婦は犬が本当に大好きだが、
別れが辛いという理由で犬は飼えずにいた。
そこに舞い降りた私の漆黒の天使ポンチョ
毎日毎日何時間も引き止められるのが
引きこもりにはなかなか辛く...
その内、ポンチョだけでも幼稚園に自ら
喜んで行ってくれるようになった。
最初は後追いをしていたのに、
次第に幼稚園のドアの隙間から侵入し
私の見送りすらせず庭で遊ぶようになった
ある日の朝、ポンチョと共に私も引き留められ
そこでダニエル氏に紹介されたのが
ガリガリに痩せた見知らぬおじさんだった。
マイクと言うらしい。
ダニエル氏はあまり詳細を話さなかったが
ホームレスだった彼を庭の小屋に住まわせ
母屋のシャワーとトイレも使わせ
食事を出し、家のペンキ塗りや畑仕事など
彼ができそうな仕事を与え
いずれ社会復帰するまで面倒みようと
夫婦で決めたらしい。
余談だが、小屋にはクイーンサイズベッドに
電子レンジと小さな冷蔵庫もある。
彼は身分証明書などを一切持っておらず
生年月日やどこから来たのか、
苗字さえも分からない。
本人曰く年齢は60代前半で、
驚くことに歯が一本もない。
だが入れ歯もしていない。
私が一番衝撃だったのが、私の愛息である
ポンチョ君が、もう完全に懐いていたことだ。
彼の住む小屋を自由に出入りし、
ダニエル氏からの紹介に至っては
「この子がポンチョのお母さんのトマト。」と
ポンチョ主役で私はオマケである笑い泣き
その頃にはもうすでに、夫婦からも
そこに集まる人達からも、ポンチョ目線で
Uncle Mike, マイクおじさんと呼ばれていた。
マイクおじさんは泣く子も黙る早口で、
いくら真剣に話を聞いても
支離滅裂で何が言いたいのか分からない。
当時なんとなく聞き取れた本人情報で
今でも私が覚えているのは
違う州に嫁がいること
昔はアーミーに属しており横浜にいたこと
日本人は礼儀正しく客人をもてなすこと
家を建てたことがあること
コーヒーに砂糖は16袋入れること
余命宣告された末期ガンであること。
それからずっと、ポンチョと共に私も寄ると
いつも彼は庭に居た。
だんだんと彼の生活習慣が見えてくる。
室内でも夜でも常にサングラスをしており
スケーターみたいなヒップホッパーみたいな
イケイケな帽子も必須だ。
クリスチャンかカトリックか分からないが
お守り袋みたいな物とどこかの何かの鍵を
いつも首からぶら下げていた。
一日にタバコを2箱吸い、コーラ4リットル
食事は用意されても野菜に興味を示さず
ポテトチップスが主食なのだが、
歯がないのでコーラでふやかして食す。
パンやピザもコーラでふやかして食す。
ハンバーガーやホットドッグの肉は
歯茎で頑張っていた。
ポンチョを溺愛するダニエル夫妻と
謎で溢れる、犬には優しいマイクおじさん。
夕方になるとポンチョが帰ってしまう...
そんな寂しさを埋めるように、
一匹のシーズーが幼稚園にもらわれて来た。
なんとポンチョの初カノである。
常にポンチョの後をついて回り、
外でのトイレを覚え、庭で遊んだり
野菜を食い散らすリスを追い払ったり
マイクおじさんを叩き起こす仕事も学んだ。
この時点でマイクおじさんはもう2匹に
メロメロゾッコン酔っ払い であるが、
相変わらず何を言ってるのかは分からない。
ダニエル氏の見解では、歯がないのも
早口でお喋りが止まらず支離滅裂なのも、
昔かなりドラッグをやっていたからだと言う。
日本では聞かない名前だと思うが
クリスタルメスというドラッグを吸うと
脳に障害が出て現実と妄想がゴッチャになり
挙動不審や不安などで落ち着きがなくなって、
なぜか歯が抜けるらしい。
(ドラッグについては、その後調べたりしてないので
聞かされただけの情報です)
そんなマイクおじさんがほんの少しだけ
お喋りを止める、という瞬間が増えたのは
ポンチョとシーズーが毎日無邪気に
「あーそーぼ!」と小屋に呼びに行き
日中庭で太陽の光を浴び、犬達と話しながら
庭いじりをするようになってからである。
だが、ある日突然
そのマイクおじさんの精神状態を
元より悪化させる出来事が起こった。