毎日 好きな曲 『 back to back 』 1日目
○楽曲情報
曲名 back to back
作詞 小沢健二
作曲 小沢健二
歌唱 小沢健二
○説明屋さんじゃありません
はじめに、オザケンファンの皆さん、誤解しないでください。僕は説明屋さんじゃありません。
というのも、いつだったかオザケンは『説明屋さんがやってくる』という話をしていたんです。案外あるオザケンの理屈パートです。もしくは小沢健二の理屈パートかもしれませんが――。
とにかく その話の中で、オザケンは「人が楽しんでるところに説明を持ってくるのって無粋だよね」「しかもその説明すらメチャクチャじゃない?」と言っています。詳しくは調べていただくとして、短く言うと そういう話を中心にしていたんです。
だけど僕がやろうとしているのは、楽しみを邪魔する説明ではなくて、詩的な決めつけでもなくて、僕の好きな曲を僕が受けた印象と共に紹介する事なんです。既に自分の解釈で楽しんでいる人に対する説明ではないんです。
言ってしまえば事故なんです。
衝突事故です。
オザケンをまだ知らない人へ向けた説明があなたに届いてしまったのは事故です。
しかし容易に予想できる事故ではあります。
なので こうして予め注意喚起させてもらいました。
僕は今から説明しますよ。
●『 back to back 』考察
・歌詞
この曲は『あのさ….』で始まります。
明らかにセリフです。誰かに話しかけています。
しかし……
なんと続きません。完全に情景描写です。
しかしセリフとセリフの間に地の文があるのは別に珍しい事じゃありません。
『甘く香る煙り』というのは煙草でしょうかね。
今度は心情です。しかもヤケクソ。
もしかするとワインをこぼした誰かは彼なのかもしれません。
サビが来てしまいました。
ここで言う『back to back』は背中合わせ、表裏一体みたいな意味でしょうか。臆病な自分と無茶をする自分は表裏一体……みたいな。
しかし『無茶』とは何でしょう。
無茶をして煙草を吸ったばかりに、むせてワインをこぼした?
そもそも お酒自体が無茶だった?
恥ずかしがりやが背のびをしてワインの店に来る事そのものが無茶だった……?
どれもありえそうですが、『何度も馬鹿つみかさねたから』と言っているあたり、これらの無茶はその前にやってきた馬鹿のせいで自暴自棄になってしまったがゆえだと思います。
主人公は臆病者で、とても恥ずかしがりで、今までそれを隠すように無茶をしてきたけど、とうとう限界が来た。
つまりはそういう事ではないでしょうか。
来ました。
これは『あのさ….』の続き候補でしょう!
僕の第一印象としては「ああこの人も自暴自棄なんだな」ですが、そんなはずがありません。
きっと主人公は甘い煙り香るバーか何か(こういうの詳しくないのでバーぐらいしか想像できません)から外に出て、暗く夜道を歩いていたんだと思います。そこに月光と、それに照らされ踊る君です。それこそ希望の光のように見えたかもしれません。
『君』はやけくそになった主人公とは真反対で、それこそ背中合わせのような存在だと思います。
そんな『君』を見て、主人公は「モヤモヤが解けた」と言います。
恥ずかしがる事なく踊る『君』を見て恥ずかしがる事が馬鹿らしくなったのか、ありのままに踊る『君』を見て自信を得たのか、その辺は分かりませんが、前向きになった事は確かです。
ワオ!
間に何が⁉
だいぶ時間が飛んでいるのか、『君』とは既に知り合って長かったのか……。『傷を創りつつ』とあるからには短くない時間が過ぎたんだろうと思います……が、うーん。
いずれにしろ僕は、まだ主人公の言うような『深い愛』を知らないので何とも言えません。
再びサビです。
一言一句変わりません。臆病なくせに恥ずかしがりな自分が嫌で無茶をします。
『モヤモヤが解けた』とは……いったい何だったんでしょう。一聴一見しただけでは何も変わっていないように思います。
もう少し読み進めれば分かるのでしょうか。
コーヒーは飲まないので『夜中のコーヒーを濃いblackにして』というのが想像しづらいんですけど、続く『炎みたいなこんな時』から何となく雰囲気だけは分かります。
主人公はいわゆる深夜テンションになっているのではないでしょうか。しかも濃いカフェインで目はさらにさらにバッキバキ!
夜中の通りを飛んでいます。
『夜中』ってのが主人公の臆病さと恥ずかしがりや加減を思わせます。
さてしかし、『君』との関係はどうなったのでしょうか。
ここで曲の始まりを思い出します。
主人公は『何度も馬鹿つみかさねたから もうひとつくらいはいい』と言って自棄酒のような事をしていました。主人公は落ち込んだときにお酒を飲んでいました。煙草も吸っていたかもしれません。しかし、コーヒーを飲んでいたという描写はありません。
だとすれば、このコーヒーに悲しい理由なんかないのでは?
少し暴論ぎみですが、きっと炎は良い炎なんです。嫉妬とか妬み嫉み恨み辛みではなく――もっと健全な炎です。詩的に決めつけます!
三度サビ。
やはり何も変わらず――かと思いきや!
『無防備』になりました。
しかし それだけ。
曲はこれでおしまいです。
モヤモヤしますね。
月影でダンス踊る君を見てモヤモヤが解けたのに、結局 最後まで臆病で、最後まで恥ずかしがりやで、そんな自分が嫌だという。変わったところはというと、『無茶』が『無防備』になっただけ。
ですが そのモヤモヤは、ぜひとも曲を聴いて解消してください。その方が説明で解消されるより何百倍も痛快ですよ。
・韻
なんどー・もばかー/つみかー・さねたー・から
あんおー・おアアー/ういあー・あえあー・アア
太字に注目です。
初めの『アアー』が伏線で、次の『あー』は両方スカシ。おあずけ?
そして「あれ?」っとなったあとで――回収の『アア』です。
実際に曲を聴いてもらえると もっと分かりやすいんですが……。
僕の文章による説明ではこれが限界です。
ぜひ聴いてみてください。
韻そのものは『あ』と『ああ』、まさに究極と言ってもいいほどの簡素さですが、単純ではないと思います。気持ち良いです。
『back to back』に合わせて『1,2,3』が「アン、ドゥ、トロワ」になっています。
『恥ずかし/がり/やで/シャイ』という区切り方が分解的で楽しいです。
○蛇足
・みんな墓穴を掘っている
この章は、あなたも『説明屋さんがやってくる』の内容を知っていらっしゃるという前提で書きます。
まあまあ それなりにオザケンファンだよな? 少なくともニワカではないはずだよな……? と思う僕ですが、冒頭で紹介した説明屋さんに対する批判には、実は半分ほどしか共感できません。
「人が楽しんでるところに説明を持ってくるのって無粋だよね」の方にはとても共感できるのですが、「しかもその説明すらメチャクチャじゃない?」の方は、揚げ足取りのように感じるというか何というか……。
言葉は道具であって手段なのだから、他の道具がそうであるように、その使い方を間違う人は必ずいるし、自分だって何度も間違ったり矛盾を生んだりしているはずです。同じ単語でも人それぞれで感じ取る意味には差異があるし、より深く精密な意味で使い分ける人もいれば全てが「ヤバい」の言い方に凝縮された人もいる。こういうのは仕方がない事で、だからこそ相手の言葉だけでなく、むしろその奥にある部分を読み取ろうと努力すべきじゃないのだろうか。それこそがコミュニケーションの今あるべき姿じゃないだろうか。……と思うというか、何というか。
もちろん墓穴を掘ってるってのは分かります。
だけど これだって批判をするためだけの言葉じゃないんです。
もしも純粋な指摘をするとすれば、僕はこう言います。
「図鑑の付録なら説明があって当然だし子ども用なら多少の擬人化や咀嚼は当然ですよ!」
でも大事なのはそこじゃありません。具体例のイマイチさに対するツッコミなんて的はずれです。だって意見は伝わってきましたし、少なくとも僕はその言葉の奥にあるもの(言葉になる前の感情や考え)を想像できたんですから。言葉はそれで充分なんです。
みんな墓穴を掘っています。
大切なのはその穴に相手を突き落とさない事です。
かく言う僕も、気を抜くと気が付けば突いていた――なんて事がしょっちゅうなんですけどね。
・スキ
これから毎日、ネタが尽きるまで好きな曲の紹介をしようと思っているのですが――実は僕は基本的に好きなものを他人に伝える事が苦手です。音楽については特に特に。
だってそれって、自分で自分を語る以上に恥ずかしい事じゃないですか!
「こういう歌が好きなのか」とか、「あぁこういうのに憧れてるんだな」とか、下手をすると「こんなやつの曲を聴いてんのか」とか、良くも悪くも自分と歌手が一緒くたにされがちですし、一緒くたになってる事がバレかねません。『好き』は『隙』です。
好きな物事を伝えるというのは、心の扉を開くという事です。防御壁の隙間を教えるという事です。少なくとも僕にとってはそういう事なんです。
なので、この企画には一つ工夫があります。
というのも……。
――好きな楽曲は分かるけど、その順位までは分からないなぁ。
これです。
シリーズを全編制覇するという変わり者がいてもいいように、念のために自分の熱量と文章量を切り離して書きます。
いくら僕の好きな曲を知られても、その度合いさえボヤかしておけば――どの隙間がどういう形でどれくらいの大きさか分からなければ――相手は適切な攻撃を放てません。
もちろん嘘を書いて文字数を水増ししたりとか、そういう事はしませんので、抑える方だけで調整するので、どうぞよろしくお願いします。嘘はありませんので。
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