違和感から目をそむけないということ
「圏外」の編集者・都築 響一さんと、「圏外」のコピーライター・日下慶太さんのトークイベントに行ってきました。
お話を聞いていて感じたのは、「圏外」で生きるには、孤独に耐える力が必要だということ、そして、自分の違和感に目をそむけず「おもしろいこと」に変換することで居場所を作る力の強さでした。
今回は、お二人のお話をまとめるとともに、わたし自身が感じたことを書いてみたいと思います。
イベントの詳細はこちら。
出会いはブログ
日本最大の広告代理店・電通に入社し、広告賞も受賞したけれど、目立った成果を残せずに居心地の悪さを感じていた日下さんが始めたのがブログ「隙ある風景」です。
「写真なら撮れるし……」と、街で見かけた珍風景?をブログに綴り、それを見た都築さんが「一緒にやらない?」と声をかけたことが出会いのきっかけなんだとか。
会場では、そんな「隙ある風景」と、日下さんが主催するイベント「セルフ祭〜己を祭れ〜」の写真が上映されました。
・ブランドバッグを道路に置いて、証明写真機に座ってカップ麺をすする女性
・路上のマッサージチェアで爆睡する男性
・スズメにはエサをあげるけれど、鳩が近寄ってくるとキレるおじさん
などなど。
いや〜、よくまぁ、こんな場面に出くわすことができるもんですね。そっちの方に感心してしまいました。
こうした写真を集めてコンテンツを作る場合、「選ぶ」という作業が発生します。書籍をカラー刷りにすれば、費用もかさむ。
でも、ネットなら。
大量の写真を使ったコンテンツを作ることが可能なわけです。
そんなわけで、都築さんのメルマガは写真満載だそうです。
わたしはまだ購読したことがないので見たことがないのですが、疲れた日に「隙ある風景」を見て、なんにも考えずに笑いたい……。
珍風景を撮り続ける日下さんが、都築さんから一度だけ注意されたことは、
「もっと写真を入れてよ」
だったそう。
すでに30枚も入れてるのに⁉︎
「質より量なんだ」
と思ったという日下さん。
すかさず都築さんが
「いや、質も大事よ」
と突っ込む姿に笑いが起きていました。
ネットコンテンツにおける編集力とは、「選ぶ」ことではなく、「積み重ねる」能力とのこと。
でも、おもしろそうなものをかぎ分ける力は必要かも。ただし、そこには道がない。指標は自分で作るしかないわけです。
自分がおもしろいと思えることをやる
セルフ祭については、ほぼ無言だった都築さんですが、商店街のポスターの話に移ってからは話が弾みました(それまで“弾んでいなかった”わけではなく、都築さんが呆れ顔だっただけです)。
(写真はAdverTimesより)
大阪にある新世界商店街のポスターを自腹で作成し、ニュースにも取り上げられたおかげで各地の商店街から声がかかるようになったというお話。
・店舗数が多すぎると手が足らなくなる
・店舗数が少なすぎると今さら感がある
というわけで、依頼を受けてもすべてに対応できるわけではないそうですが、「無料で作ります。だから口出ししないで」という進め方をすることによって、若手クリエイターに作品発表の場を提供できたことになります。
ポスターがバズったことで、徐々に大きな仕事の声もかかるようになり、会社でのポジションも作れるようになっていったそうです。
商店街のポスター作成は完全にプライベートな活動として、やっていたという日下さん。
「自分がおもろがってないのに、おもろい仕事が飛び込んでくるわけがない」
と、組織の論理や束縛から脱却するために必要なのは「自分がおもしろいと思えることをやる」ことだとお話されていました。
「組織の論理に対抗したいなら、ローンを組むな!」
と力説して笑いをとっていた都築さんですが、貸家が当たり前だった日本は「ローン」によって人々の認識が変わりました。
つまり、マイホームを持つことがステイタスでありロマンだと。ローンを組めば、夢が叶いますよ……と、隠れたニーズを作り出したのが、ローンなのだそうです。
良くも悪くも、ニーズを掘り起こすとは、そういうことなんですね。
「圏外」クリエイターになるために
都築さんが少年だったころ、テレビは本編よりもCMの方がおもしろく、カッコよかったとのことで、都築少年に影響を与えた動画やポスターを拝見しました。
たとえばこちらのCM。
これ、まじすか!?
放送されていたのは夜中だったそうですが、これがお茶の間にフツーに流れていたなんて、日本すごいな。どんな時代⁉︎
ここには商品のメリットを訴求する要素はなにもありません。クリエイターが、ただただかっこよく作りたいものを作っただけ。
「今の広告は押しつけがましい」と言われる理由が分かる気がします。
ただし、都築さんによると、雑誌全盛期に、編集と広告部は決して敵対関係ではなかったのだそうです。流行りのものを一緒に見て、共におもしろがれる空気も信頼もあったのに。
今ではすっかり、「広告=嫌われ者」という存在。人間同士の共闘意識もなくなってしまったということでしょうか……。
じゃあ、もう日本のクリエイティブは絶望的な状況なのかというと、そうでもないようです。本屋もラッパーも、個性的なものは地方にあると都築さんは語ります。
土地代の高い東京で何かやろうと思ったら、まず生活費を稼ぐためにアルバイトをしなければならず、人はそれで疲弊してしまう。だから、固定費の安い東京の「圏外」の方が、コンテンツとしての中身を充実させられる可能性があるとのこと。
セルフ祭の写真から受ける印象と180度違う、誠実で腰の低い印象の日下さんと、穏やかににこやかにチクリと刺す都築さん。
もっともっと話を聞きたい!と思いましたが、お時間が来てしまいました。
「圏外」で「迷子」になる
今回のイベントは、日下さんの本の出版を記念してのものでした。
ジャケットはちょっと「迷子感」強めな感じですが、日下さんの学生時代のアジア旅行のくだりはけっこうな衝撃がありました。
ロシアではスパイと間違われ、チベットでは鳥葬を見て、戦時下のアフガニスタンを移動。
この旅で見た世界と、東京での生活にギャップを感じ、それを埋められなかった日下さんは、大阪に戻って商店街のポスター作りを始めます。
そしてそれが、自分の居場所となっていく。
「圏外」でいることには忍耐も必要だと思います。
孤独や嫉妬、渇望、諦観などが押し寄せて「迷子」になりそうだから。
それでも。
自分の中の違和感に目をつぶらないことが、生き残るためには必要なのだと強く感じました。
文句を言うヒマがあれば、おもしろい方へと動きだせ。「石の上にも三年」なんて、三年も時間を無駄にしたヤツが言うことだ!
と語る都築さんのこちらの本もおすすめです。
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