ホルモンの奴隷
昨日、ついに30週を迎えた。
「女は一生ホルモンの奴隷だから」と会社の同僚が言っていたけれど、本当にその通りだなあとこの8ヶ月をもって実感している。
妊娠していなくてもホルモンは女性を振り回してくる。
個人差はあるが、生理1週間前は空腹がひどく眠気が頭を覆い、肌が荒れてメンタルが崩壊し、生理中1週間は腹が痛くて股から血が出て引き続きメンタルは狂っている。
調子が良いのはその後の数日ぐらいだろう。また生理が近づくと同じループである。1年を通して体調が万全な日なんて数えるほどしかないのではないだろうか。閉経して更年期になるとまた違った狂い方をするらしい。
何なんだろうマジで。神様は女に恨みでもあるのか。
妊娠中の奴隷っぷりもこれまた酷い。
もちろん初期の悪阻はホルモンの仕業だし、中期後期を通して起こる数えきれない不調の多くもその影響が大きい。
地味に厄介なのはメンタルの不安定さだ。
経産婦の友人たちがこぞって「何もないのに泣けてくる」「突然死にたくなる時がある」と言っていたが、自分も例外ではなかった。
夜一人でシャワーを浴びていると、とにかく悲しくて涙が出てくる。私の場合は原因がゼロの状態なのにぐらぐらするというよりは、1の事柄が100倍ぐらいに膨れ上がって悲しくなってしまうようだった。
高いところにある箱が取れない時、疲れて立ち上がれない時、靴下が履けない時、行きたい場所を諦める時、食べたいものを諦める時、映像や読み物が楽しめない時。
「妊婦だから」という枕詞がついて出来ないことがありすぎて、その度に「こんなことも出来ない」という気持ちが100倍になって襲ってくる。
ひととおり泣くと多少すっきりするので気持ちのままに泣くのだが、その度にどこかのサイトで見た「ママの悲しい気持ちは赤ちゃんに良くない」とかいう言葉がチラついて余計に悲しくなる。
うるせえ、じゃあどうすればいいんだ。
赤子には申し訳ないと思いつつ、ホルモンには抗えないので泣く。
24時間体制で妊婦が集合できる会場(オンラインでもいい)とかがあればみんなで泣けるのに。世界のどこかで同じようにホルモンと戦って負けて泣いている妊婦がいると思うと一緒に泣きたいなと思う。
一人になってどこか遠いところに行きたいともよく思う。
でもきっと歩けない。お腹が張って痛むたびに不安になって、近くの病院を検索するんだろう。今何かあったら自分のせいなんだから。
そもそも、もう一人にはなれない。
会社の友人と久しぶりにランチを食べた。
彼女は34歳。妊活中である。彼女の周囲でも不妊治療中・妊娠中の友人が多いらしい。「34歳の壁だからね」と言っていた。実際、現在35歳の私の周りでも妊娠中の友人が非常に多いように思う。仲の良い友人で今年生む子たちは、知っているだけでも4人いる。
34歳あたりで女性は一度選択するのだ。自分もそうだったのでよく分かる。
生姜焼き定食を食べながら「妊娠」について色々と話をした。
友人が「私たちの自己はいつ戻ってくるのかな」と言った。そう。私たちの自己はいつ戻ってくるのだろう。
体調、キャリア、お金、時間、美容、その他諸々。
「命に比べたらそんなどうでも良いことを!」と殴られるかもしれないが、学歴だ!出世だ!やりがいだ!美しくあれ!と言われて奮闘してきた30代女性にとっては、決してどうでも良いことではないのだ。
例えば2人目や3人目を考えた場合、私はどうなるんだろうと想像する。
あと何年、体調が悪いんだろう。あと何年、自己がなくなるんだろう。
私も夫も一人っ子ではないので、兄妹(兄弟)のいる楽しさを知っている。できれば同じような楽しさを作ってあげたいとも思う。
ただ、具体的にプランを考えようとすると一旦思考が止まる。
泣いても笑っても、今30週。
37週〜39週に産まれることが多いらしい。
あと1.5ヶ月ぐらいだろうか。
再来週には産休に入る。もっと仕事がしたかったなあと思ったり、もっと色んな場所に行きたかったなあと思ったりする。でも無理なのも分かる。
私はホルモンの奴隷であり、赤子の器だもの。
ここまでネガティブなことを書くと、今後何かあったときに必ず「私が◯◯◯だと思っていたからバチが当たったんだ」みたいな思考になるんだろうな。怖いなあ。
元気に健康に産まれてほしい。早く顔が見たい。
小さい手足が見たい。肌に触ってみたい。
それは本心だし、毎日ボコボコ動く胎動を見て安心する。
それとこれとは別だ。安心しろ赤子。ごめんな。
あともう少し頑張ろうな。
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