角田光代著「紙の月」感想(ネタばれ有)
代償のありすぎる承認欲求
角田作品では珍しく映像から入った作品(ドラマ面白かった…)
角田作品でおなじみのアジアへの逃避で幕を開ける。
今までと違うのは主人公が「罪をおかしアジアを放浪している事」であろう。
一億円を横領した女。
ともすればドラマティックになるであろうこの作品は淡々と綴られていて、
横領という行為もあまりの自然さにいつからだったっけと頁を戻る始末。
些細な事で一線を越えた…というのとも違う気がする。
主人公が考えたように光太に会わなくてもいつかこの線を飛び越えていたのではないか…。
学生時代親のお金を多額に寄付していた梨花。
手持ちのお金が足りずお客のお金から躊躇せず借りた梨花。
これは繋がった行為だ。主人公自体この行為に疑問を持っていない。
彼女は彼女の承認欲求を満たそうとして「お金」という物を使ったのではないだろうか。
それが貧しい国の子供か現実にいる若い男かはきっとあまり大差ないだろう。
そしてそれを持たない時にやっと感じる万能感。
彼女の代償のありすぎる承認欲求は彼女自身を飲み込みそして彼女を丸裸にしてやっと得られたのであろう。
夫の言動はとくに悪くも取れず、逆に受動的な梨花にイライラした。
その位スルーすればいいじゃないと。
光太の恋愛でも能動的に見えるがここでもやはり受動的だと思う。
愛してはいたが「若い男に見初められた自分」を守ろうとしたのではないだろうか。
彼女が求めているものはお金でも恋愛でも無かったのだ。
他登場人物の章も少しずつ梨花の言動にリンクしていてとても読み応えがあった。
今後私も「同級生の一億円を横領した梨花ちゃん」がこんな時どう思ったのか反芻しそうだ。
※某所へ書いた感想をこちらに移しました。
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