結局「初心忘るべからず」なんだよ。
僕の担当する日曜朝空道も、ボチボチ再開しだした。
やはり稽古は嬉しい楽しい大好き。
何ヶ月も稽古できなくて、正直モチベーションが無くなりかけた時期もあった。
モチベーションが無くなりかけた時は、そもそもなぜ武道を始めたのかを思い出すようにしている。
僕の通ってた中学は田舎だったもんで、まあ荒れていた。
窓ガラスは全て割れていた。
トイレのドアも全て壊れていた。
廊下をバイクが走っていた。
生徒に殴られて先生が入院したりしていた。
僕は特に悪くもなく普通の生徒だったので、悪い集団の目につかないようにおとなしくしていた。
ある日、普通の男子生徒がひとり、悪い集団に殴られながらどこかに連れて行かれようとしていた。
他の男子生徒は、それを見て見ぬふりをしていた。
僕はなるべくそのやり取りを視界に入れないようにしながら、友達との話に夢中でそのイザコザには気付いてない風をよそおっていた。
かわいそうな同級生が連れて行かれ、ホッとした空気が流れた。
「あー良かった、俺じゃなくて」
ヘタレ全開で安堵していたら。
「男子誰も助けへんね。カッコわる…」
女子がボソッと言った。
その瞬間、僕は強烈に恥ずかしくなった。
そうやんな、カッコ悪いよな。
「義を見てせざるは勇無きなり」って言ったのは、孔子先輩やったっけ?
このままずーっと、「義を見てせざる」男で生きて行くんか?
ちっさくなって隅っこで生きて行くんか?
そもそも、このままやと一生モテへんな。
「一生モテへん」まで差し掛かった時に、強くならないと、この先生きていても仕方がないような気がした。
その頃、テレビで極真空手の世界大会を観た。
松井館長とアンディ・フグが、決勝を戦った大会だ。
ドキュメント風に作られた演出もカッコ良くて、録画したテープを何度も何度も観た。
「極真空手をやれば、俺も強くなれる」と思った。
すぐに極真空手に入門……とはならなかった。
その頃、滋賀県は「日本で唯一」極真空手の支部道場が無い県だった。
元々大阪の団地に住んでいたのに、滋賀県に家を買ったオトンを恨んだ。
仕方ないので、いつか極真空手をする日までに基礎体力をつけようと、毎日スクワットを1000回した。
成長期の毎日のスクワットにより、身長が止まった。
この時期にスクワットなんかしなかったら、身長も180㎝を超えていただろう。
『メンズノンノ』のモデルとかになってただろうから、そうなったら阿部寛は世に出てなかったかも知れない。
中3の時にやっと滋賀県にも極真空手の道場ができて、晴れて入門。
極真に入門して半年ぐらいしたら、生まれて初めて女子に告白された。
「デートの待ち合わせ場所に行ったらニヤニヤしながら不良グループが待ってて、『お前に彼女なんかできるわけないだろ‼︎』とか大笑いされて、裸でハリツケにされてスライムとかぶつけられるんや‼︎」
って完全に疑心暗鬼で宮下草薙みたいになっていたが、ちゃんと本当に人生初の彼女になった。
とりあえず、モテたい君は武道か格闘技をやりなさい。
結果モテなくても責任は取らないが。
ただ、武道や格闘技で得られる自信は、必ず君の人生にプラスになる。
それは保証する。
僕は誰に向けて喋ってるんだ?