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武道家シネマ塾⑦ あなたが映画を勉強したいなら、『ロッキー2』だけ観ればいい。
この記事は、以前”言葉とたわむれる読みものウェブ”BadCats Weeklyに寄稿したテキストの再掲となります。
「ハシマさんがいちばん好きな映画はなんですか?」
自称映画通の同僚に尋ねられた。
「年間200本観てる」と豪語しているヤツだ。なんか「通っぽい」タイトルを出さないとバカにされるかと思い、とっさに出たのが
「『存在の耐えられない軽さ』かなぁ……」
だった。
ウソです。
いちばん好きな映画は『ロッキー』です。しかも『2』です。バカにされるかと思って、いちばん最初に浮かんだ文芸大作っぽいタイトルを宣いました。「“そんかる”はさぁ……」って「逃げ恥」みたいな略称で熱く語りましたが、そんな呼び方初めて使いました。
白状します。『ロッキー2』こそ至高です。何度観ても、「これが映画だよ……」と涙を流します。
ちなみに自称映画通のいちばん好きな映画は『チャーリーズ・エンジェル』でした。なんやねん。
*
『ロッキー2』(‘79)。あの名作『ロッキー』(’76)の大成功を受けての続編。今回は、シルベスター・スタローンが監督・脚本・主演の3役をこなしている。「脳筋のアクション俳優」というのが、おそらくスタローンのパブリック・イメージだと思われる。それも否定はしない。ただ、スタローンは多くの自らの主演作の脚本を担当しており(監督兼も多い)、特に‘70~’80年代においては名作が多い。
スタローンの書く脚本は、名セリフに溢れている。1作目の「あなたはどうしてリングに上がるの?」「俺は歌うことも踊ることもできないからさ」あたりのロッキーとエイドリアンの会話はどれも素晴らしく、マネしたくなることうけあいだ。僕も、実生活で1度だけこのセリフを使った。「はあっ!?」って言われた。
ロッキーとエイドリアンは、この『2』で正式に結婚する。式の後、ロッキーはタキシード姿のまま、ウェディングドレスのエイドリアンをお姫様抱っこして帰宅する。その際に、ロッキーが思い出話をする。
「お前を一目見てこう思った。この子は内気という病気にかかってる。でも、帽子と20枚重ねたセーターの下は」
「3枚よ」
「町いちばんの美人だって」
言うまでもないが、もちろん「20枚」というのは比喩で、それぐらい自分の殻に閉じこもっていたということだ。ホントに言うまでもないが。
アポロとの戦いで引退したロッキー。CMの話が来るが、あまりの大根役者ぶりにクビ。前作で売り物を殴りまくった精肉工場で働き出すが、不景気のためリストラ。生活が困窮し始め、妊娠中のエイドリアンが、かつてのペットショップでまた働くと言う。心配で仕方がないロッキー。
「ペットショップ病になったらどうする」
「そんな病気はないわ」
シュールな夫婦漫才みたいなやりとりが楽しい。
漫才というと、老トレーナー・ミッキーとのやりとりもじわじわ来る。
アポロとの再戦に向け、作戦を練るふたり。
「お前の右ジャブはダメだ。お前のサウスポーは最低だ。オーソドックスに変えろ」
「なんで今ごろ言うんだ……」
ロッキーが10代の頃から指導して来たのが、このミッキーである。10年以上、そう思い続けてきたのか。言うタイミングはいくらでもあったはずだ。
慣れた立ち方を逆構えに矯正することは、一朝一夕に出来るものではない。左利きの人間に、「今日から右利きになれ!」と言うようなものである。そんな無理難題を、試合数週間前に突きつけるミッキー。
慣れないオーソドックスでスパーリングを行うが、案の定実力の半分も出せないロッキー。当たり前だ。利き腕じゃない方の手で箸を持つようなものだ。
ミッキーは心底心配そうに、
「どうしたロッキー。体調でも悪いのか」
大丈夫かミッキー!!!
まあ試合直前に言うのはあんまりだが、ロッキーにオーソドックスを勧める気持ちはわからんではない。
サウスポーは、右足を前に構える。そのため、前面に出る顔の右側を被弾しやすい。加えて、ブル・ファイターのロッキーは相手のジャブを一切避けない。わざと貰っているのかと思うぐらい、避けない。貰うたびに頭が跳ね上がっているので、なかなかの貰い具合だ。長年の被弾の蓄積で、ロッキーの右目はほとんど見えていない。見えないから更に貰うという悪循環。
「オーソドックスなら右目を守れる」という点も、ミッキーがその構えを勧める理由のひとつである。
一方、その「右目問題」もあり、エイドリアンは再戦に反対である。気まずい雰囲気の中、ロッキーは練習へ、エイドリアンはペットショップへパートに出かける日々。エイドリアンが応援してくれないため、ロッキーもイマイチ練習に身が入らない。
ある日、エイドリアンはパート先で陣痛を起こし、倒れる。子供は無事生まれたが、エイドリアンは過労と心労がたたって昏睡状態となり、入院する。
寝ずに付き添うロッキー。責任を感じたミッキーも付き合う。
数日後、看病の甲斐もあり、目覚めるエイドリアン。泣いて喜ぶロッキーとミッキー。そこでのロッキーとエイドリアンのやりとり。
「お前が反対するなら、もうボクシングは辞めるよ」
「ロッキー、お願いがあるの。……勝って……!」
さっきまで年相応にしょぼくれて座っていたミッキーが、おもむろに立ち上がる。
「なにをボヤボヤしてる! 帰って練習だ!」
次の瞬間、あの世界一有名なテーマ曲が流れ、生まれ変わったように気合いを入れて練習するロッキーの姿が。ロッキーの代名詞とも言える、片手腕立て、片手懸垂、そして、走る。おなじみの汚い市場を走る。子供がついて来る。気づいたら、子供がえらいこと増えている。1000人ぐらいいそうである。そのまま、これまたおなじみのフィラデルフィアの石段を駆け上がり、1000人の子供たちと両手を突き上げる。
エイドリアンの「勝って」からのこの一連の流れで、毎回僕は涙が止まらなくなる。羽佐間道夫と松金よね子の吹き替えだったらなおさらだ。
確かにベタだ。だが、ベタの何が悪い。ベタこそ至高。ベタこそ究極。All you need is ベタと、ジョン・レノンも言っている。
そして試合当日。
ガウン一枚に身を包み、真剣な表情で入場するアポロ。前回の入場とは真逆である。前回はコロンブスのコスプレをし、船のハリボテに乗って入場したのだ。
アポロにとって、初対決はお祭りだった。気まぐれで選んだ名もなきボクサーにチャンスを与え、なんなら美談にでもしようかと思っていた。万に一つも負けるとは思っていなかった。近年、配信サービスなんかでよくある「○○に勝ったら✕✕万円」程度の企画だったのだ。
しかし「かませ犬」のはずのロッキーに大苦戦したアポロは、なんとか勝利を収めたが、世論は酷評、彼自身も勝ったとは思っていない。
アポロの時間は、前回の試合から止まったままだ。彼が再び動き出すには、ロッキーを完全に叩きのめすしかない。
ゴングが鳴った。
相変わらずジャブをすべて貰うロッキーだが、今回はオーソドックスに構えているので、被弾するのは健康な左目だ。なんの問題もない。……ないのか? いや、大アリだ。パーリング(ごくごく初歩的なディフェンス技術)ぐらい練習しようよとか、避けられないならせめてガードは上げようよとか、言いたいことは山ほどある。
でも、それがロッキーだ。巧みなディフェンス・ワークや華麗なアウト・ボクシングなんか、ロッキーには似合わない。愚直に不器用に前進してこそのロッキーだ。
最終ラウンド。
ついにミッキーからのGOサインが出て、ロッキーはサウスポーを解禁する。どうせ解禁するならもうちょっと早くても良かったんじゃないかと思うが、とにかくロッキーの猛反撃。ダブル・ノックダウンの末、ロッキーだけが立ち上がる。
ロッキーは世界チャンピオンになってしまった。
ふっ切れた表情でロッキーの勝利をたたえたアポロだったが、実は全然ふっ切れておらず……。
火がつくまでは基本淡泊なロッキーと違い、アポロはなかなか執念深い。その執念深さが、この続きの3作目をさらに面白くしている。
『ロッキー3』レビューも、震えて待て。
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