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武道家シネマ塾① どんなに大人になっても僕等はサニー千葉の子供さ~前編~
この記事は、以前”言葉とたわむれる読みものウェブ”BadCats Weeklyに寄稿したテキストの再掲となります。
いやいや、千葉真一が死ぬわけないやん、だって千葉真一やで!
……と思っていたが、どうやら事実らしい。
『仁義なき戦い』シリーズで一緒に暴れまわっていた方たちが、どれだけお亡くなりになっても、千葉真一は死なないと思っていた。
だって、たまにテレビで見かける姿は常に元気で黒光りしていたし、絶対に3度目の結婚をして、新田真剣佑と前田郷敦の弟を作ると思っていた。そして、その三男もアクション俳優となり、御年100歳の千葉ちゃんが、変わらぬアクションを披露する絵を想像していた。
僕たちの年代(40代)の男子が小学生の頃、特撮ヒーロー物や日本製アクション映画には、いつもお馴染みの面々が主役を張っていた。
真田広之、黒崎輝、大場健二、志穂美悦子……。
彼らが大阪城の天守閣からお濠に飛び込んだり、コンバットスーツに蒸着して悪と戦う様を、時に厳しく、時に優しく見守っているのが、千葉真一であった。主人公の父親であったり、師匠であったり、今の若人にわかりやすく言うならば、鱗滝さん的なポジション。なぜいつもこのポジションは、この千葉真一という元気満々のおじさんなんだろう。
「真田広之も黒崎輝もJACというチームのメンバーであり、そこの代表が千葉真一である」
母・洋子が教えてくれた。
僕が物心ついた頃には、千葉ちゃんは既に「鱗滝さんポジション」になっていた。だから、「千葉ちゃん大活躍!」な映画は後追いである。
空手少年になった10代の僕は、若き日の千葉ちゃんの一連の空手映画を1本1本追いかけた。
直撃!地獄拳
激突!殺人拳
激殺!邪道拳
けんか空手 極真拳
初デートでチョイスしようものなら、成立するものも破綻するラインナップである。
千葉真一の映画は、一切説教臭くない。一切メッセージ性もない。いや、あるのかもしれないが、僕は気づかなかった。
そこにあるのは、ただただ面白い「だけ」の、娯楽アクション映画であった。
「千葉真一死す」の報の翌日、僕は出勤早々先輩に向かって、
「千葉ちゃん死んだから、多分今日の俺は使いもんにならへんと思います」
と、のたまった。
先輩は50代で、それこそ千葉真一が「鱗滝さん」ではなく「竈門炭治郎」だった頃から知っている世代だ。僕の気持ちを十分理解してくれた。「でも俺は倉田保昭の方が好きやったけどな」って、その情報はいらない。
僕らがしばらく千葉真一の思い出に浸っている横で、20代の若手たちは一切興味なさそうにスマホをいじっていた。
「おいお前ら、なんで千葉ちゃん死んだのに無関心やねん」
と言いそうになったが、やめた。大人だから。
ここまで書いてて、僕は気づいてしまった。おそらくこのサイトを見てる人の大半は、弊社の若手同様「特に千葉真一に興味がない」であろうことに。
先輩ライターのみなさんの記事を見ても、おしゃれな映画や最新ヒット作のレビューは見受けられるが、『直撃!地獄拳』や『激突!殺人拳』のレビューは、ついぞ見受けられない。
今このサイトを見ているあなたに、僕は千葉真一の素晴らしさを説かねばならない。
僕は”サニー千葉チルドレン”だから。
*
あなたが”サニー千葉初心者”なら、まずは『柳生一族の陰謀』(‘78)をおすすめする。
”徳川2代将軍秀忠が、病気のため急死。3代将軍の座を巡り、長男・家光(松方弘樹)と次男・忠長(西郷輝彦)の骨肉の争いが勃発。家光派の柳生但馬守宗矩(萬屋錦之介)と息子・十兵衛三厳(千葉真一)ら、忠長派の新陰流の達人・小笠原玄信斎(丹波哲郎)ら、そして、この混乱に乗じて王政復古を狙う朝廷の烏丸少将文麿(成田三樹夫)らの、壮絶な権力闘争が始まる”
この作品の千葉真一は、彼の最大の当たり役である柳生十兵衛を演じている。
権力欲に走る父・宗矩に反発し、士官はせず、強さのみを追い求めて武者修行に明け暮れるサムライ。この人物に惚れ込んだ千葉真一が深作欣二監督に話を持ち込んだのが、そもそもの発端。東映側もちょうど時代劇の復活を目指していたところで、一気に映画化が決まった。
この作品の千葉真一は、めちゃくちゃ強く、貧しい人々に優しい正義のヒーローだ。終盤、父・宗矩に反旗を翻すのだが、それも貧しい人々を愛するが故である。まず「入門編」としては、”正統派ヒーロー”としての千葉真一を見てもらいたい。
だが、さすが千葉十兵衛、ただの正統派ヒーローではない。
先述した成田三樹夫演じる烏丸少将文麿。白塗り丸眉おじゃる言葉のステレオタイプの公家さん。なよなよとした、ともすればオネエチックな人物でありながら、実は剣の達人。「ただの公家」と油断した十兵衛の弟・左門(リアルでも千葉真一の弟・矢吹二朗)を、一刀の下に斬り伏せる。それでいて、同じく十兵衛の妹・茜(志穂美悦子)に対しては、「おなごを斬る刀は持たぬでおじゃる」と、見逃す。かっこいい……。
その文麿と十兵衛の一騎討ち。正々堂々と戦おうとする文麿に対して、刃物を仕込んだ編み笠を投げつける十兵衛。それに気を取られた隙に、一気に文麿を斬り殺す。
えっ、卑怯!
……ではない。これが実戦である。これが、真剣勝負である。十兵衛は、これまでの人生において数え切れないほどの命のやり取りを経験している。対して文麿は、いくら剣が強いとは言え、公家である。道場の稽古ではさぞ強いのだろうが、実戦経験には乏しいと思われる。やっぱ公家だし。言わば”軍人VSスポーツマン”の戦いである。命のやり取りの場にスポーツマンシップを持ち込んだ時点で、文麿の負けである。実戦に、「負けたけどいい勉強になりました。もっと練習して、次は勝ちたいと思います!」は無いし、「戦いが終わればノーサイド。健闘を称えあう美しい光景であります」も無い。あるのは、「負けたら死ぬ」という現実だけだ。
荒唐無稽な作品ながらも、子供向けヒーローにはない「現実の厳しさ」を教えられる。
なお、千葉真一の柳生十兵衛ものとしては、テレビ版『柳生一族の陰謀』(’78)、『柳生あばれ旅』(‘80、テレビ)、『魔界転生』(‘81、映画)、『柳生十兵衛あばれ旅』(‘82、テレビ)と続く。特に『魔界転生』は必見。若き日の真田広之と、美しかった頃の沢田研二のキスシーンも見れます。
*
”ヒーロー千葉ちゃん”を観たあなたの次の課題は、”一見いつものヒーローなんだが、だんだん狂気を帯びてくる千葉ちゃん”だ。
『戦国自衛隊』(‘79)を観てもらう。アマプラで観れるよ。
現代の自衛隊が戦国時代にタイムスリップしてしまうというお話。先ほどの『柳生……』に比べて、ストーリーの説明が簡単!
千葉ちゃん演じる隊長は、戦国武将・長尾景虎(夏八木勲・後の上杉謙信)と意気投合してしまい、共に天下取りを目指す。
「いやいや、天下取ってる場合ですか! それより現代に戻る方法を探しましょうよ!」と、半ギレで訴える隊員たち。当然だ。婚約者を残してきている者もいるのだ(演じる若き日のにしきのあきらが素晴らしい。素晴らし過ぎて、にしきのあきらであることに終盤まで気づかなかった)。
隊長千葉の答えはこうだ。
”我々が昭和に戻るためには、歴史と戦って天下を取ることだ。我々が天下を取ったという歴史はない。だからこそ、我々が天下を取って歴史を狂わすんだ。そうすれば、恐らくそのショックで歴史という時の神が、我々を昭和の世界に戻すに違いないんだ”
なんだそのトンデモ理論は。しかし、千葉ちゃんの強烈な目力と低く響く声で語られると、俄然信憑性を帯びてしまうから恐ろしい。
隊員の心配をよそに、どんどん仲良くなる千葉ちゃんと景虎。共に当時40歳の千葉真一と夏八木勲が、いちばんいい時のカップルのように浜辺でキラキラとじゃれ合う! しかもスローモーションになり、ムーディーな曲までかかる! なぜかお互いの衣装まで取替えてチャンバラごっこをし出したかと思うと、最後には三点倒立のタイムを競い合う! 実際に千葉真一と夏八木勲は大の親友だったそうなので、現実でも、会うとこんな感じだったと思われる。それを苦笑いで見つめるしかない、まだペーペーだった頃の真田広之らの姿が目に浮かぶ。「いったい何を見せられているんだ……」と思うだろうが、我慢してくれ。この過剰なまでの「仲良しぶり」があるからこそ、ラストの決闘が本当に悲しいんだ……。
当時、ニヤニヤした悪役がもっとも似合う男だった渡瀬恒彦。例のヘアスタイルのまま演じて、「そんな自衛官おらんやろ!」とみんながツッコんだであろうかまやつひろし。隊員と恋仲になる、村娘の小野みゆき。後家さん宅に夜這いに出掛け、敵同士で鉢合わせするが、ちゃんとフェアにジャンケンで順番を決める三浦洋一と佐藤蛾次郎(実は筆者はこのシーンがいちばん好き……)。
主役の千葉真一と夏八木勲以外のサブキャラもみんな素晴らしい。騙されたと思って観て欲しい。初月は無料なんで、アマプラ。
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