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ブラインドブック体験記 in PASSAGE

これは初めて挑戦したブラインドブックで盛大につまづいた私が再挑戦した、当事者にとってのみ重大な事件の記録である。

ブラインドブックとは

本を提供する側が著者やタイトルなどを隠し、わずかなヒントから読み手に選んでもらうスタイルがブラインドブックだ。
ヒントは本文の抜粋もあれば「SF好きにおすすめ」「とにかく笑いたい人向け」のようにジャンルや雰囲気重視のものもある。

「自分で選ぶと同じ作者や似たジャンルになってしまうから他人のおすすめが知りたい」という本好きはもちろん、あまり本を読まない人もゲーム感覚で楽しむことができ、図書館や書店のイベントでも人気が高い。

私のブラインドブック失敗談

なかなか楽しそうなブラインドブックなのだが、私は過去に1回チャレンジしたきり2回目に踏み出せずにいた。

理由は「読んだことがある本だったらどうしよう」「あまつさえ持っている本だったらどうしよう」という不安に尽きる。
いや、日本国内に流通する本の数を考えれば私の読書量など砂漠の砂の1粒程度のものだから、心配するほどのことはないはずだ…そのはずなのだが。

何しろ記念すべき初のブラインドブックで選んだ1冊(確か「コーヒーのおともに最適な1冊」だったと思う)が、まさに私の本棚にある本と同じものだったのである。
この時は売り手が知り合いだったお陰で、こっそり「アンタこれ持ってるよ!」と忠告を貰えたものの、それで「こっちは持ってないと思う」と勧められた本を買って帰った(面白かった)のは、ブラインドブックというより知り合いに選書してもらっただけである。

そんなわけで私は、2度目のブラインドブックに怖気づいていた。

抜粋方式で再挑戦

「わざわざブラインドにしなくても読む本はあるし…」と、誰が聞いてくれるわけでもない言い訳を繰り返していた私だが、神保町の共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」でブラインドブックと再会する。

300以上の棚が入っているPASSAGEにはブラインドブックを取り入れている棚が幾つかあり、その中には本文の一節を添える抜粋方式のブラインドブックもあった。
この形式なら、上のような理由で腰が引けていた私にも安全性が高い。

読んだことがある本なら印象的なフレーズには気が付くだろう。
気づけなかったら読み込みが甘いということなので、改めて熟読すればよろしい。
そして選んだのがこちらの一節である。

やはり文明は偉大だ。失ってみて初めて分かるのは親の恩と同じだ。

こころば書店(アレクサンドル・デュマ通り14番地)「一文選書」より

たった一行にしてはかなり情報量がある。これを手掛かりに、まずは内容を推理してみることにしよう。
今後の挑戦でお手付きをしないためにも、予測する力を高めておくに越したことはない。

予想

まず、この本の中では文明が失われているらしい。
語り手は失った後で文明のありがたさを実感しているのだから、文明消滅の前後を両方知っているはずだ。
言い回しから想像するに「親の恩」を無条件に享受するのが当然の年代ではない気がする。
多分成人。どこか斜に構えた表現にモラトリアムを脱しきれないお年頃を感じなくもない。20代か、最高でも30代の入り口と見た。

まだ若い語り手が覚えているなら、文明消滅はそう昔の話ではないだろう。
戦争か突然の大災害で文明が消滅した後の世界を描くSFだろうか。
いや、遭難して文明から切り離された語り手が生き延びるサバイバルものかもしれない。
どちらにしても非日常的なシチュエーションであるから、形式は小説の可能性大。大穴でサバイバル体験を語るドキュメンタリー。

中の本は包まれて見えない

と、ここまで予想してから本を開いてみることにした。

結果

答えはこちら。

有川浩『塩の街』角川文庫、2010。一文タグは栞にしてみた

形式は小説。突然の大災害は起きているし、サバイバル要素もある。
ただし状況は「追い詰められた人類はかつての日常を取り戻せるのか!?」といったところで、文明はまだ滅んでいなかった。
人類に希望があることを喜べばいいのか、予想が外れたことを悲しめば良いのか、悩ましいところである。

ああ、そう言えば人間は自室のクーラーが壊れただけで「文明は偉大だった!」と(文明の産物である自宅の中、電灯の明かりの下で)嘆き悲しむことができる生き物だったなあ…と今年の夏を回想しても、してやられた感はどうにもならない。
それなりに良い線をいっていた(と、自分では思っている)だけに、細かいニュアンスを取り損ねた悔しさもひとしおだった。

読解力の不足を反省しつつ、次のチャレンジに備える次第である。

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