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心の支えになる本はありますか?本から広がる世界で想像する未来は?

1 心の支えとなった本


「心のチキンスープ」という本を存じですか?シリーズ化され、かなりの数の本が出版されていますが”チキンスープ”の名前の通り読んで心が温まるようなお話のつまった本です。画像は英語版ですが、もちろん日本語訳の本もあります。

私がこの本を初めて手にとったのは子育ての真っ只中。家の近くの図書館で見つけた時でした。アメリカで長男を出産し帰国後に2人目を妊娠した直後、当時住んでいたマンションを阪神大震災で失くし、2人目を出産後、誰一人知り合いのいない土地で2人の幼子の子育てをする事になり途方に暮れていた時でした。

その頃、震災後で多忙を極めたサラリーマンの夫に育児の協力を求める事は出来ず、今で言うワンオペ状態。家庭科の教師をしていて保育の知識はありましたが自分の子育てとなると何もかもがうまく行きませんでした。

震災後に小さなマンションの部屋に引っ越す事は出来ましたが日本で乳児を育てるのは初めてで不安な中、長男は反抗期を迎え育児ノイローゼになる一歩手前でした。何かにすがりたくて壊れそうな心を持て余し、子供達を連れてよく行った場所が図書館でした。

アメリカに住んでいた時〈チキンスープ〉が病気の時などに優しく体を癒してくれる食べ物と聞いた事があり「心のチキンスープ」というタイトルを見た時手に取らずにはいられませんでした。

それほど当時の私は慣れない子育てと震災後の新しい場所での生活でいっぱいいっぱいの日々を過ごしていたのだと思います。

「ちょっとでいい立ち止まり自分の気持ちを整理したい!」「はばかる事なく不安な気持ちを吐き出したい!」「思いっきり泣きたくなるような心のうちをさらし出したい!」そんな思いを抱えていても、乳幼児のいる暮らしでは何も出来ませんでした。

そんな時見つけた”心のチキンスープ”。本のページをめくり短いエピソードを1つ読み終えた時、それまで積もり積もった心のうちの何かが噴き出し涙が出て来ました。声を出して泣く事は出来なかったけど泣けた事で気持ちがすっきりしたのです。

この時から、この本は私の心の支えとなってくれました。子供達から目が離せない子育てに追われる時期は長く続きましたが、その本が図書館にあるというだけで良かった。泣きたくなったら本をページをめくれば思いっきり泣く事が出来る。そして子供達を叱ってばかりですさんだ気持ちになっていても優しい心を取り戻せる。それだけで十分でした。

2 本がもたらしてくれた世界

本には本当に不思議な力があります。私が最初にそれを痛感したのは子供の頃でした。当時、高校で教師をしていて組合活動などでストレスを溜め込んでいた父は家に帰ると些細な事で私に暴力をふるっていました。

九州という男尊女卑の土地柄や躾として殴る蹴るは当時は当たり前だったのかもしれませんが、私は何でいつ怒られるかが分からず、父の顔色を伺いながら、いつもびくびくしていました。

それが字を読めるようになり本を読んでいると、父から暴力を振るわれる事が少なくなる事に気が付いたのです。”本”が父からのいつ始まるか分からない暴力から逃れられる盾になる! これは私にとって大きな発見でした。

それだけでなく、当時私を苦しめた父母の喧嘩や親戚関係のゴタゴタや学校での友人関係など現実の世界で起こる嫌な事から、本は私を別の世界に連れ出してくれる扉でもありました。

今ならゲームや動画の方がポピュラーなのかもしれませんが、本は自分の一人の世界に入る事が出来て誰に気を遣う事も誰からの傷つけられる事もありません。
小学校の中学年にもなれば学校の図書館などから自由に選ぶ事が出来ます。その頃は本がある場所にいるだけで気持ちが落ち着いたものでした。

3 本で広げる世界

思春期に入った頃、私は1冊の本と出会います。当時は珍しかったのですが父の転勤でアメリカに住む事になった女子学生の話でした。
九州の山奥しか知らなかった自分にとって、その本に書かれているオシャレな生活やシビアなアジア人への人種差別などは現実とは欠けは離れた別世界でした。
それなのに「この世界にこんな場所があるんだ! 」その何とも言えない開放感と自由が満ちていた世界に惹かれ何度も読み返した事を覚えています。

「いつかアメリカで暮らしてみたい!」当時は家は借金まみれで田舎暮らし、海外に住むなんて見果てぬ夢とは思いながら、英語の勉強に真剣に取り組めたのは、この本のおかげとも言えます。

そして当時夢見たアメリカ生活は現実のものとなり、シリコンバレーでの暮らしが始まります。
そこでも私の居場所は図書館でした。家庭科教諭になったばかりの安定した職を捨て、夫の海外転勤についていく事を決めた自分にとって英語をマスターし帰国後の仕事につなげたいという思いは強く英語の勉強は義務となっていました。

ただ家の近くの図書館で嫌になる程たくさんある英語の本に囲まれて最初は途方にくれた事を覚えています。

慣れてくると図書館の使い方も分かり「英語の勉強をしなければ!」と思いつつも日本語が恋しくなり日本語の本のコーナーで過ごす時間の方が長くなりました。そこで日本にいたら絶対読まないような本にも触れる事が出来たのはいい経験となりましたが…。

洋書については日本にいた時に受けた英語の授業とは全く違う本の中身にショックを受けたものの、自分の専門分野(家庭科関連)の本は意外と雰囲気で読めるものだと分かった事は大きな収穫でした。

帰国後は児童向きの英語教室を開いていた事もあり洋書絵本の世界に入り込みました。
その世界観は独特で日本語の絵本にはない魅力があり言い回しや独自の単語の使い方などに苦戦したものの、レッスンでの読み聞かせの時間はとても楽しい時間となりました。

ただ洋書絵本に関しては生徒達に楽しんでもらう事だけが目的ではなく、当時言われ始めていた国際化を進めるために「多読」という手法を取り、出来るだけたくさんの英文に触れる事で英語文化や英語そのものに慣れていく事も目的としていました。

このように滞米生活を経て、私は自分自身の世界を本で広げる事から子供達の世界を本で広げるようになって行きました。

4 本を通して広がる世界

本の読み方が変わったのは子供達の手が離れて家庭科の仕事に本腰を入れ始めた頃からでした。公立高校から私学の中高一貫の進学校に職場が変わると生徒達に授業を通して伝える情報が変わって来ます。

その頃から生活分野に関わる事で生徒達が興味を持ちそうな異分野の本を読みようになりました。仕事関連で読む本は多岐に渡り、ようやく情報取集のための本の選び方や読み方に慣れた頃、教育の世界に”ファシリテーション”という新しい考え方が入って来ました。

それを少しでも授業に取り入れるために”ファシリテーター”養成講座を受ける事にしました。その養成講座で出会ったのが”読書会”でした。
その読書会は本を読んで行動に移すという特別なプログラムで読書会を開催出来るファシリテーターの養成講座だったのです。

その考え方や読書会での本の読み方や扱い方は全く初めての経験で心底驚いた事を覚えています。そして読書会を通して参加者の方々から本についての考えや意見などを聞く事で、実に多様な捉え方と内容の理解の仕方があるのだという事を実感する事が出来ました。

本を通して果てしなく広がる世界を目の前にして、その可能性の大きさに呆然としてしまった感覚は今でも忘れる事が出来ません。

本は読み方を変える事で読み手が必要な情報やアイデアを与えてくれる魔法の道具だという事、数多くの読書会に参加し他の人たちと一緒の場で本を読む事を通して多様な視点を得る経験が積めた事は大きな財産となりました。

5 洋書読書会で深まる世界

コロナでの自粛生活が始まってから本との関係は更に変わって行きました。
それは洋書読書会の世界に飛び込んだ事がきっかけでした。

コロナ禍で海外に行けなくなると余計に英語の力を磨いておかなければと感じるようになりました。ポストコロナの社会では自分で英語を扱える事が武器になると直観で感じたからです。

翻訳機やGoogle lensなどで気軽に英語と日本語の翻訳は可能になりましたが、自分の考えや意見を英語で伝える・誰かと共有する・SNSで発信するなどをしていく事で国内だけでなく海外に自分の存在を知ってもらう事が出来るからです。(偉そうに書きながら、自分でも出来ていないのがお恥ずかしいのです。)

昨年、学校が一斉休校だった時期に英語力を身につけるためのオンラインサロンに入っていたのですが学校が再開してからは仕事に追われ参加出来なくなりました。そしてすっかり疎遠になったサロンに戻る気持ちはなくなり英語の世界からは離れてしまいます。

その頃ふとしたきっかけで洋書読書会の事を知ります。この会への参加を考え始めた事でもう一度英語に向き合う気持ちが起きます。

初めて参加した時は、ものすごく緊張し英語も情けないほど出てこなくて自己嫌悪で落ち込みました。でも読書会の雰囲気は好きで
日本語でも大丈夫という所も安心出来、今でも続けて参加しています。

先月の読書会で選んだ本が英語版の「心のチキンスープ」です。

今、コロナ感染が子ども達にも広がり2学期を前に不安を抱える親御さんや子供達がたくさんいるだろうと考えた時、しんどい時に心の支えとなってくれた本から何か自分に出来る事のヒントをもらえないだろうかと考えたからでした。

実際に多くやヒントを得る事が出来、社会全体を覆う不安や出口の見えない閉塞感に視野が狭くなっていた自分に気づかされました。

読書会ではファシリテーターや他の参加者から投げ掛けられるふとした質問や言葉で自分だけでは出来なかった本への理解を深める事が出来ます。これは、その時々のメンバーと持ち寄られた本が織り成す独特の世界で体験しなければ分からないかもしれません。


(下記のリンクは洋書読書会のページです。興味を持たれた方はぜひご覧下さい。一緒に洋書の世界を楽しめる事を楽しみにしています。)

6  想像する未来?



前回参加した読書会で他の参加者が紹介してくれた本「GOD EQATION」にはとても心ひかれました。その本は「NEXT WORLD」という本の著者でもあるカク・ミチオ先生が書かれた新刊です。

「NEXT WORLD」は初めて読んだ時、その内容の面白さと目新しさに本当に驚いて家庭科の授業でも生徒達に紹介した本です。本と連動していたNHKの番組もとても印象に残っていますが「未来を語るのには不可欠!」と言えるほどの本かと思っています。

実現するかどうかは分からなくても、ほんの少しでも本を通して未来を垣間見る事が出来ると、先が見えず“途方にくれて何をしていいか分からない”という状態に陥らずにすみます。

この本でテクノロジーの進化やそれが人々の暮らしに及ぼす影響の大きさなどを知ってから、在職中に家庭科の授業をする時でも出来るだけ長期的な視点での生活の見方や捉え方を伝えるように心がけるようになった転機をもたらしてくれた1冊でもあります。

個人によって描く未来が違うのは当たり前の事ですが、今のような社会全体の変化に個人の暮らしが影響されるのは避けようがありません。

だとしたら、いたずらに今を不安がり見通しが立ちにくい未来を思い悩むよりも本を通して自分らしく生きて行ける未来を想像し、そこに向かう歩みを1歩ずつ進めてみませんか?

ネットの情報も役立つモノが多いと思いますが、自粛を余儀なくされる時期だからこそ自身で選んだ一冊と向き合ってみるのもいいかと思います。

さあ、あなたが想像する未来は?

長文にお付き合いいただき
ありがとうございました。(終わり)