黄金のまどろみ、着ぐるみの中の自己意識
・眠るか眠らないか、布団の中でその瀬戸際にあるときはなんて気持ちいいんだろう。甘美という言葉がぴったりだと思う。
ふくらはぎの力が抜ける。耳が暖かくなってくる。頭は重く、視界がゆるくなる。今日あった出来事と明日の天気のことを思い出すと、小さい頃友達と遊んだ記憶が混ざる。考え事をしながら、その考えている一連の流れがどこかで破綻していることに気がつき、そろそろ落ちるな、と思う。自分というものがとろける感じがする。次の瞬間(そんなはっきりした境界はなく、グラデーションだが)私はもう眠っている。
・無意識の話を認識論の授業で聞いた。意識のほかに無意識がある。意識とは、気がついていること、わかっていること、注意を向けていること らしい。
無意識とは自分がどこにあるかわからず、何も思っていない状態ではない。
無意識と気絶は違う。例えば、私たちは「ドアを開けよう」と思うことなく、「無意識に」ドアを開けることがある。
では、眠っている間は?眠っている間にも私には意識があり、意図して行動したりする。夢の中で。
・夢のことを考える。
私は明晰夢を見たことが記憶の上で一度もない。夢の中で起こることすべてを、現実として受け入れている「私はここに小さい頃から住んでいたな」とか「この人(目が覚めて思い出すと全く知らない人)は私の友人だ」とか、夢の「設定」を信じきっている。目が覚めて思い出すとかなりおかしな夢の世界の中で私は、確かに自分を、その世界を、他者を意識しているし、そこで起こす行動は確かに私の意図によるものだ。
・現実(眠っている私にとっての現実ではなく、寝室で眠る私を取り巻く現実)において私は、布団の上に体を横たえて、ただ眠っている。
現実での私の体は、うずまき状の石膏でできた帽子をかぶった美大生とすれ違ったり、ひき肉を投げてマトに当てるアミューズメント施設ができたニュースを自宅のテレビで見たりなどしていない。(これは私が実際に見た夢の光景です)でも、ほとんど動かずに横たわる私は、確かにその経験をしており、自分の意思を持って行動している。
夢の中にいて面白いことは様々あるが、最も「現実」と違っていて面白いのが、自己認識や世界を見る視点が変化することである。
・あるとき私はいつもの、起きている時と同じ私であり、次の瞬間、誰でもない視点から、起こる出来事を眺めていたりする。この時の私は映画を見るような状態で、目の前に起こることのみを見ており、そこに「自分」を認識する余地はない。またある時の私は漫画のキャラクターであり、その世界での役割を意図的に演じることがある。その時の自己認識は、「私は〇〇というキャラクターをやっている者だ」となる。
・これは起きている間の現実ではなかなか起きないことかもしれない。
そこで実際に起こっていることを見ながらも自分を認識しない、まるで映画を見ている時のような感覚は、現実ではありうる。
しかし、私は自分を何かのキャラクターをやっていると思ったことはほとんどない。いや、あった。着ぐるみに入るアルバイトをしたときだ。
・着ぐるみに入ると、自分の中に自分が二つできる。
キャラクターが頷くとき、私は心から同意の気持ちを込めて、「私が」頷いている。キャラクターはこんな時、楽しく思ってこの動きをするだろうな、と思って動く時は、自分も本当に楽しいので、楽しげな動きをする。(キャラクターならこう思い、動くだろう)という考えかたによって行動しているが、それが中身の人間である自分の考えと行動に移っていることに気がつく。
さらに、着ぐるみの中で自分がそのキャラクターと同じ表情をしていることに気がつく。例えば通常時、私が何らかの表情を浮かべるとき、私の頭の中にはその表情の自分がイメージされている。着ぐるみの中にいるときは、「着ぐるみの表情」がイメージされている。その一方で、自分が(人間の)自分であることは忘れていない。
これは、「着ぐるみの外のキャラクターとしての私」と、「その中にいる私」の二つの自分ができているようでとても面白い感覚だ。
・これに似た感覚が、夢の中でも起こる。「キャラクターとしての私」と「それを演じている私」の二人がいる。さらに、夢が夢であったことを思い出しているからこの記憶があるわけだから、「その夢を見て、思い出す私」もできる。
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まどろみの素晴らしさを書いていたのにそこからかなり飛躍しました。自分の意識の中にもう一人の自分ができるという体験は、それほど珍しいことでもないのかもしれません。夢についてはまだ考えたことがいくつかあるので、そのうち書こうと思います。
では、こんな時間になったので、今から眠りに落ちるギリギリの甘美な時間を味わおうと思います。おやすみなさい。