或深夜

 保冷庫から、昨日保存しておいたタッパーを一つ取り出す。

 鮮度は多少落ちてしまった。円やかになった彩りと臭気からは継続した満足を得ることが難しい。追憶の熱を込めて、少しずつその吐瀉物を呑下す。元は私のものではない、顔も知らぬ貴方との共反芻。舌上に、嚥下し喉に、鼻腔に広がる風味は自傷に似た満足感をもたらしてくれる。刃を仕舞った後の冷静さではない、宛がって徐に引き始める当にその瞬間の焼き付くような満足。世の如何なる美食を以てしても得られぬ、堪える程に濃く淀んだこの生の味を欲するはきっと哀しくも私ぐらいのものだ。理解している故に、公共の場で正常を装いつつもふと暗がりに一人狂い垂れる。

 本日の晩餐はこれにて。一箱、珍しく手作りの反芻物を小さなタッパーに詰め込む。保冷庫を開け、奥に眠るとっておきの逸品を一瞥し震えながらタッパーを仕舞う。


 そして口を濯がずに、このまま寝入りましょう。

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