書評:『六韜』(林 富士馬)

『孫子』と並んで評される兵法書である『六韜』を読んでみた。林 富士馬氏の翻訳が実に素晴らしい。

六韜の建前は、三国志よりも古い時代の太公望が語ったものを記したもの、ということになっているが、冒頭に著者の言葉にある通り、この本は、後生での創作・改変である可能性が高いらしい。その通りだと思う。後だしじゃんけん感満載の兵法書となっている。内容は『孫子』に近い。ただ、『孫子』が戦略レベルの話が中心であるのに比べ、『六韜』は細かい戦術レベルの話がたくさんでている。例えば、「戦車何両に馬を何頭」などという軍の編成のバランスや、「火計を仕掛けられた場合、自分の風下を焼いておいて、焼け跡に布陣すれば助かる」などの軍の運用の細かい話がしっかりのっているところが、『孫子』とは異なる。

六韜の「韜」とは、「章」のようなもので、6つの章からなっている。「虎の章」があり、これは、「虎の巻」の原語であるらしい。実際に「虎の巻」を読んでみると、「敵に囲まれた時にどう対処すべきか?」などのケーススタディが続いている。原理原則ではなく、あまり応用が利くものではない。いつの時代も問題に対する「解答」が重要視されていた事がこの「虎の巻」という言葉から分かった気がする。

個人的には、武将の見極め方などが面白いと思った。「少し地位を与えてみて、貴族な生活しちゃうような奴はダメだから、使うな」というような事が書いてあり、「なるほどな」と思う次第である。

中国の古書は、人の使い方、試し方という意味で、深い示唆を与えてくれる。

『六韜』(林 富士馬)
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