書評:『若い読者のための第三のチンパンジー』(ジャレド ダイアモンド, レベッカ・ステフォフ, 秋山 勝)

人間が動物ではなく特別であるとすれば、どこが特別なのかを、科学的に探求したのがこの本である。若くないけど、すごく役立つ知識満載の本だったので、人に贈ることを検討しようと思いました。

チンパンジーと人間について

チンパンジーと人間の遺伝子は1.6%しか違わない。違わないが、チンパンジーと人間の間には大きな結果の違いがある。それはどこから生じたのかを生物学、遺伝学、考古学など様々な分野の情報を統合して問うているのが、この本である。ジャレド・ダイアモンド氏の昔の本『人間はどこまでチンパンジーか?』のUpdate版であると解説にあったので、そうであろう。

ちなみに、DNA的には、古い順に、テナガザル、オラウンウータン、ゴリラ、ヒト、ボノボ、コモンチンパンジーの順に新しいとのこと。ヒトより、チンパンジーの方が新しい。近縁のチンパンジーとの差異は、1.6%というが、ちょっとした遺伝子の違いで、生物は大きくなったり、小さくなったりするので、まあ、違うということ。400万年前の二足歩行、300万年前の類人猿の分岐(道具の利用)、50万年前のホモ・サピエンスの登場と続くが、どれもクリティカルな進化ではない。チンパンジーもカラスも道具は使うし、他の人類と共存していたから。13万年前には、ネアンデルタール人が現れる。6万年前にちょっとした変化がホモ・サピエンスに起きて、イノベーションが起きるようになる。そして、ネアンデルタール人を滅ぼす。そのちょっとした変化というのは、複雑な言葉という話。

「タカだ」「ヘビだ」という言葉は、チンパンジーにもあるそうだ。ただ、複雑な文法を使って話すことはホモ・サピエンス以外には確認されていない。その結果の大躍進なんだそうだ。

思ったのは、言葉は大事にしないとダメだよなあと。「あれはダメ」「これはダメ」と叫んでいるだけでは、サルやゴリラと変わらないということ。それがどうしてダメなのか、ちゃんと文法を持って、時制を踏まえて話せない人は、人ではないということか。

ちなみに、後に出てくるが、絵を書くという才能は象にもあるそうだ。実際、象に描かせた絵を児童心理学の学者に見せたら、「ちょっと精神異常の小学生」という反応だったそうで、人の書いた絵と区別はつかないらしい。

一夫一妻について

オスメスの体の大きさが違うのは、一夫多妻の影響なんだそうだ。妻の数が多いとオスの大きさが大きくなる。ゾウアザラシとか異様にオスがでかいのは、妻が多いから。ヒトは、赤ん坊の教育に時間がかかるから、一夫一妻で協力してやって行く。だから、あんまりオスメスの大きさが違わないとのこと。後、ヒトだけ排卵日が隠されていて、(子供も生まれないときに)無駄にセックスするわけだが、その理由も追求している。最後に、一夫一妻の鳥が浮気しないのを比べている。結果は、「する」なのだが、そういう比較が面白い。ちなみに、進化学的にもメリットがあるから、そういう浮気性が生き残る。

ちなみに、ヒトは同じような種類が好きなんだそうで、これは実験して証明されているそうだ。肌の色での人種差別などがあるが、基本、ヒトは自分に近いものに興味を持つようになっているらしい。肌の色は自然淘汰の結果だけではないらしく、性淘汰、つまり、モテるか、モテないのかの結果でもあるらしい。北欧とは気候の違うオーストラリア大陸のアボリジニに金髪が残るなどにその片鱗がある。ピンクに塗られた親鳥を見た小鳥は、ピンクのものを好むらしい。

「フジテレビのアナウンサーがかつて人気があったのは、よくテレビに出ているから」という話を昔聞いたことがあるが、基本同じだろう。見慣れたものを好むというのは、どうやら動物の性向であるらしい。

老化と加齢について

生きていると新陳代謝があり、体の細胞は常に入れ替わっている。それが体のメンテナンスであるそうだ。この体のメンテナンスにリソースを割くか、新たな子供を生むのにリソースを割くかの問題が、老化と加齢の問題であるらしい。

どこかのタイミングで、古いものを破棄して全とっかえしたほうが、古いものを修理しながら生きるよりコストがかからないということ。車の新車とメンテナンスを例に出しているが、そういうことだと言っている。

googleの人とか、不老不死を目指している会社がたくさんある。生物学的に見た場合、寿命になったら体のいろんなところに一斉に耐用年数がすぎてボロが来るというのが、一番効率の良い仕組みであるそうだ。つまり、「一箇所をいじっても、他も壊れるので、一箇所だけ特定して「不老不死」とか言っても、無駄じゃね?」と言っている。そして、その部品部品のバランスは、進化の過程で作られてきたものだから、そう簡単には作れないよね、と言っている。物事を、機械的に考えるヒトは、部品で考えるんだけど、統合されたものと考えると、実績を積み重ねてきたものには叶わないよね、という気が私はしてくる。

農業について

ジャレド・ダイアモンドの面白さは、反例の多さである。「人間は、農業社会を作っていて他の動物とは違って偉大だ」と主張する人に対して、ジャレド・ダイアモンドの反論は、「いや、一部のアリも農業やってますけど、何か?」と答えるのである。

ハキリアリというアリがいて、葉っぱを切り取って、巣に持ち帰り、キノコを増やして、主食にしているらしい。アリでもやっているから、人間性の証明にはならないよね。証明、終わり。

ちなみに、農業前の狩猟採集民の方が体が大きかったそうで、米を食わない方が、体は大きくなるようだ。食料事情と体の大きさはやっぱり関係するのね、と思う次第である。

穀物に頼らない程度の豊かさを得られるように、頑張って働こうと思った。


タバコとか酒とか、薬物とか

「俺って、こんなやばいことをしていても大丈夫なんだぜ。俺、すごくね」

ということらしい。

ガゼルのストッティングが例に出ているが、ライオンの前でぴょんぴょん跳ねて見せる。ライオンに見つかって危ないのだが、「そんな危ないことをしても、逃げ切れるよ」という証明なので、ライオンも追わなくなる。飛ぶだけで遅いやつなら、ライオンに食べられる。ちょっと危険なことをやることで、嘘偽りない、自分の有能さと自信を見せつけ、ライオンが足のはやいガゼルを追うという無駄をしないための信号を送っているということ。

「酒とか飲んじゃっても、俺、大丈夫なんだぜ、すごくね」とか、
「こんな高級ワイン飲んでお金の無駄遣いをしても、俺の経済力はビクつかない。俺の経済力すごいんだぜ、俺、すごくね」ということらしい。

よくバブル景気の時のキャバクラで、「ピンドン1本」(若い読者のために書くと、「ピンクのドンペリ1本」=「ロゼのドンペリニオンというシャンパーニュ」を1本という意味。)というのがあったが、これである。シャンパンの味も、価値もわからないけれども、人より高いものを払うだけの余裕があるというアピールをキャバ嬢に向けて発するのがこれである。同様なシャンパンタワーなどは、経済力のあるおばちゃんなどが、ホストにアピールするためのことであるらしい。平たく言えば、酒もタバコもマウンティングの道具ということ。

ただし、薬物中毒、アルコール依存症などはあるので、注意しましょう。

宇宙人危ない

人間が数々の生物種を絶滅させてきたように、欧州人がアメリカ大陸を発見して、原住民を虐殺してその金銀財宝を盗んだように、自らに劣る生物がいた場合、生物はそれを侵略して終わってきたわけだ。だから、地球を見つけて、これるような高度な文明を持った宇宙人が地球人を見てやることといえば、征服でしかない。ので、「宇宙人にメッセージとか、怖いことやめようね、ボイジャー1号、2号」という話をしている。

まあ、宇宙旅行していて、海とか植物とかがすごく美しい惑星を見つけて、文明を持った蟻が統治していて、簡単にふみつぶせそうな蟻なら、蟻がどんなに文明的でも、侵略しそうだもんな、ホモ・サピエンス。逆もまた然りでしょうね。確かに。


ジェノサイド

ヒトというのは、虐殺を繰り返していて、例えば、オーストラリア大陸にいた大型哺乳類は絶滅させるし、インディアンがアメリカ大陸に上陸すれば大型哺乳類を絶滅させるし、欧州人がアメリカ大陸に上陸すれば、原住民を病気で絶滅させる。また、密林の地にキリスト教が入ると、現地の文化を全部壊してしまうので、部族の芸術品も途絶えさせてしまう。

人間の動物以外にも同族殺しのジェノサイドはあるそうで、ただ、それが起きるのは集団を率いることができる種類のみ。要するに、個体同士であれば、同じ種であれば大した差は出ないが、徒党を組める生物の場合、袋叩きができるので、一方的な虐殺が起きる。さらに、ヒトのように高度な言語を持った場合、技術レベルに大きな差ができるので、一方的な虐殺ができるということらしい。ゴリラの子殺しとか、チンパンジーの争いなどもあるらしい。

なるほど、核爆弾を一方的に持った米国の原爆の広島の投下や、飛行機技術で上回った米国による東京大空襲は、ジェノサイドそのものだ。

インターネットもあるこの時代、相互理解を進めて、ジェノサイドをやめようね、と著者は訴えている。


生物種の絶滅とあなたの絶滅

イースター島を例にとっているが、反映した文明が衰退するときがある。イースター島は争いに明け暮れ、島にあった森林を全部燃料に使ってしまい、島の生物種を狩り尽くして、絶滅したということ。

そして、今、様々な生物種を人間が絶滅に追いやり、今もなお、熱帯雨林を破壊し続けているとうこと。

今の中東の砂漠地帯は、昔は森林がしげる場所であった。西暦0年付近のローマ時代においては、北アフリカは農業地帯だったが、いまは砂漠化している。中国の砂漠化も進んでいる。

核戦争による破壊もあるけど、生物種の絶滅の加速も怖いという話。

原子力発電所も怖いけど、もっと怖いのは石炭を燃やし続けることかもしれないと思った。見えない二酸化炭素が、地球環境を変えていて、その結果、いろいろな生物種が死に絶えていって、地球が住みにくい場所になっていく。電気の使う量が変わらなければ、原子力発電所を止めれば、石炭発電所やガス発電所が増えていくわけだ。太陽光発電は不安定で、増やせばガス発電所が増える。まあ、風力発電を増やせればいいわけなんだけど。

それから森林破壊などを含めて、ちゃんと対策を打っていかないと、ホモ・サピエンスって自爆して絶滅しちゃうなと思うのでした。

恐竜の絶滅に関する個人的な仮説として、私は、次のようなものもあるのかなあと妄想を巡らせるときがあります。

恐竜の絶滅は隕石の衝突などではなくて、1億年にも及ぶ恐竜時代の最後の数万年ぐらいに恐竜文明が発達して、メキシコあたりに大きな爆弾を落とすか、核融合爆発でも起こしてしまい、地球環境がぶっ壊れた。

そんなことにならないように、生物の進化と歴史について、継続的に学んで行きたいなと思った一冊でした。







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