書評:『断絶の時代―いま起こっていることの本質』(P.F. ドラッカー)


この本を読んでの一番の感想は、「あぁ、なぜこの本を10年前に読まなかったのだろう」という後悔である。そして、今もなお、読んでないより、読んでおいた方が、人生の為に役に立ったと思う。

この本は1968年に初版がでて、その後1983年版がでて、これが、1999年に日本語版として出ている。30年経って内容が色あせなかった、というより、ドラッカーの予言的なものがことごとく的中していったように見える。しかも、それは今でも色あせない。しかし、彼自身がこの本で書いている通り、ドラッカーに取っては予言ではなく観察したものであり、「確定済の事実」である。

それは、パラダイムシフトであり、時代が変わったであり、まったく違う時代になってしまったということである。歴史を振り返れば、2000年時点で、変わる事は見えていた事にある。

あげつらえば、「起業家の時代」「グローバル化の時代」「多元化の時代」「知識の時代」とある。第一次世界大戦から2000年ぐらいまでは新たな産業は生まれず、第一次世界大戦ごろの産業の延長線上でしかなかった。それが新たな産業が生まれると言うのが一つ目の変化。だから、起業家の時代。

グローバル化は説明する必要が無いだろう。

多元化の時代は、大きな政府が無意味になって、小さな組織が独立して動くことでしか意味が無い時代。共産主義の終わりを見抜いている。画一的な大組織が機能しなくなるのは、日本の大企業をみるとこれも分かる。

最後の「知識の時代」が最も興味を持った。産業革命後の労働は、肉体労働があり得たが、今はあり得ない。知識を仕事に適用する事で、徒弟制度を基にした職人は全て知識の適用にだいたいされたと言う話。AIが盛んな今に、ぴったりの話である。そして、そんな社会の中では、教育は変わる必要があり、教科書を読むだけの教師は「生産性が低い」と言い切っている。確かに、教科書的な話は、e-Learningで十分である。だから、子どもが退屈すると言っている。

引用すると、

「それぞれのリズム、速度、持続性に従って学ばせるのであれば、やがて、どの子も同じところへと到達する。皆ができるようになる」

「できない子は、生まれつきではなく、できる子であるわけがないという決め付けからつくられる」

「できない子がいるということは、学校の恥以外の何者でもないということである。できない子などはありえない。お粗末な学校があるだけである」

となる。

インターネットがあり、調べようと思えば何でも調べられるような世の中で、知識を学校で事前に詰め込む事に意味は無い。「こういうことがある」を知っているのは悪くはないが、少なくとも全てを完璧に暗記する価値は急激に薄れている。学校のあり方も変えるべきだと言っているし、学校に行ってから働くのではなく、働いてから学校に行くべきと言っている。15歳でやっていた販売員の仕事を、短大を出てからやっても意味が無いと言う。だって、やってる仕事はおなじで、15歳でもできているから。いちいち、ごもっともである。

さて、こんなドラッカーの観察が1960年代にはあったわけだが、今の日本社会を見てみると、驚くほど、第一次世界大戦前から続く前時代のスキームが権力の中枢を握り、未だ、カビのは得た産業に莫大な投資がかけられている事に気付く。そして、新たな時代を知る若者が、無能な高齢の管理職により無力化され、ますます、日本の経済力が弱くなっている様子が伺える。

半導体産業やコンピューター産業が明らかである。新しい時代のこの産業はクラウドであり、パブリッククラウドの事業者数社は、年間何兆円の設備投資をしている。グローバルで見て、大きな投資をすべきはこの成長産業だが、日本にはこの産業が無く、未だ、プライベートクラウドを作っているバカが、赤字を垂れ流しながら、スーパーコンピューターを作っている。しかも、規模が圧倒的に小さく、数百億円の投資さえもできない。

一方、時代の流れにそった、ベンチャー企業が出始め、そして、ベンチャーキャピタルにもお金が回り始めたのは、新たな時代への明るい兆候である。

この本を読んだ感想がさらに二つある。

一つは、「ドラッカーは小説家」という話の肯定である。ドラッカーは何も統計を取っていない。ひたすら、論を小説家のように繰り返す。それが正しい事は、歴史が証明する。彼なりの論理の帰結はあるのだろうが、そこは統計的に証明されたものではない。彼の人間の脳みその解析の結果である。それが、伝わりやすい表現で示される。これは、小説である、というのが、この本を読んで良くわかった。

二つ目は、「他の新しい本も読んでみたい」である。1968年の予言でこれである。ドラッカーは既に無くなっているが、2000年前後の世界を彼はどう捉えたのか、しっかり読んでみたいと思うのである。

というわけで、ドラッカーの本をさらに注文してしまった。

しかし、ドラッカーの本は、日本と米国では随分と売れたはずなのであるが、これを読んだ日本人は、一体、何をしていたのだろう…

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