書評:『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之)その9

盛り上がってまいりました。
科学革命の第15章 科学と帝国の融合。
16章 拡大するパイという資本主義のマジック。

リンドが実験でビタミンを見つけ、航海の代表的な病気を無くした。クック船長はそれを取り入れ、豪州を見つけた。その後百年で、豪州を英国の領土に組み込んだ。科学が帝国主義に結びついた例。

昔の航海は、学術研究でもあり、帝国主義の征服の旅でもある。
科学と帝国は融合していた、と著者は言う。

イギリスの科学は、タスマニアを滅ぼした。科学が進んだイギリスは「征服した国に高い生産性を適用し、幸せを広げる」という想像上の虚構を正義としている。タスマニア人はそれなりに幸せに暮らしていたし、独自の文化を持っていた。ゆえに英国の高い生産性を拒否する。イギリスは、自国の文化・文明を強引にぶち込み、タスマニア人を絶滅させた。

古代の地図に白い部分はなかった。大航海時代になって初めて、世界地図に白い余白部分が出てくるらしい。白い部分を征服したくなるのが帝国主義、未知なるものを追いたくなるのが科学。科学と帝国主義は、相性が良い。

帝国主義は、科学を支援した。スペイン・ポルトガルの南米侵略は、地元民からしたらエイリアン襲来である。エイリアンは、病気をばら撒くわ、奴隷労働させるわ、で、最悪の征服者だ。なぜ寡兵でそれができたかというと、科学の心で征服対象を逐一調べ、政略を駆使したからだ。

大英帝国によるインドの征服も、逐一インドのことを調べ、征服した例だ。武力一辺倒では無いために、征服の効率が良かった(まさに、科学の活用。古くは、工学を駆使したローマ帝国のカエサルもこの部類だろう)。

これに、16章の資本主義が加わる。

資本主義の前提は「成長」。仕組みはレバレッジ。手元に100ドルあれば、銀行はそれをなんども貸して、1000ドルまで信用創造できる。信用創造により、人々はリスクを取れるようになる。様々なリスクが取られる結果、社会変革が早く進む。

「成長」の前提として、進歩が必要だ。この進歩を与えるのが「科学」だ。科学によって進歩し、生産性が上がる。

将来を信用する:信用が盛んに発生する:経済成長が早い

これが循環するのが、科学と資本主義の融合だ。科学と資本主義は、相性が良い。科学と帝国主義が合間って、19世紀、20世紀の世界は動く。

大航海時代がこれによくハマる。船に投資をして、科学で国を征服し、鉱山から金・銀を奪ってきて売ることで、投資を回収する。

だから、新たな侵略と科学の研究が進む。

ただ、資本主義の罠というのがある。普通にやると、悪気がなくとも、とんでも無い悪行をやっていることがあるのだ。

例に出てくるのは南米。

欧州人は、南米に、船だし、侵略し、鉱山経営する。欧州人が南米原住民に病気をばらまいたので、原住民は大半死んでしまった。労働力が不足した。現地労働力がないので、アフリカから奴隷を輸入し(奴隷貿易)、ひどい労働条件で南米の鉱山で働かせ、奴隷を死に至らせた(奴隷貿易会社は普通に上場会社だったらしい)。

虐殺だった。残酷だ。現代なら社会に認められない。この残虐行為を普通に行ったのが、資本主義の歴史だ。

科学+帝国主義+資本主義 は強烈な力を持っていた。


感想

科学帝国がえた圧倒的な力。圧巻である。大きな衝撃を受けた。

科学帝国は、それぞれの歯車がよく回っている。

日本がこの圧力に飲まれなかったのは、島国とはいえ、奇跡に近い。

(そろそろ終焉を迎えようとしている)西洋天下は、科学の心と言う、ふとしたきっかけで火がつき、資本主義・帝国主義が融合し、大きな力を得た。

現代は、それとは違う情報化社会に入っている。世界にアンテナはってないと怖いな、と、つくづく思う。最近のクラウドや、シェアリングエコノミーなどは、この手を力を生み出すものであるなと。

科学・帝国・資本主義。
言葉を失う衝撃でした。

いいなと思ったら応援しよう!