どの『バフェットからの手紙』を読むべきなのか?
私はバフェットのファンでして、バフェットのいうことを学び、実践しようと日々心がけております。
しかしながら、バフェットさんが書いた本というのは実はなく、世の中のバフェット本のほとんどはインチキであります。ただし、『スノーボール』とこの本だけは違います。バフェットさんが認めている本だからです。
その本の名前は、『バフェットからの手紙』
ところが、この本、複数のバージョンがあります。
複数の版がある、『バフェットからの手紙』
長らく、私は、一番古いやつを読んで、満足していました。
しかしながら、これ、第5版まで出ていて、また読むべきか迷っていたというか、小金をケチって読まずにいたのですが、2021年になって、これを読み直すことにしました。
まずは、kindle版で少し安い第4版を買いました。
するとびっくり、内容が変わっているんですね。
バフェットさん、高齢と言っても、毎年updateされるのがバフェットさんで、その株式投資の考え方に関しても変わっていてびっくりでした。いや、私の考え方の方が時代遅れになってました。古典を守るだけじゃだめですね。反省しました。
慌てて買ったのが、最新の第五版です。こちらが2021年4月現在で最新です。
お値段が一番高いですが、まだ買っておらず、読みたいと思っている方は、迷わず、最新版を買うのがおすすめです、というのが私の結論です。
そういたる過程などを書いていこうと思います。
『バフェットからの手紙』は何故多くの人の心に響かないのか?
バフェットからの手紙というのは、バフェットが自分が経営するバークシャー・ハサウェイ社の株主にあてて書いている書簡なんですね。株式を持っていると送られてくる書類みたいなもんです。そこに長々と会長からの手紙が書かれているわけです。それを、再編纂したのがこの本です。
なので、バフェットそのものの言葉が書いてある貴重な本です。
バフェットのことを知る人は多いのに、彼の考え方を知り、その通りにやろうとする人は少ない。何故でしょう?
私は、再度、この本を読み直して、その理由がわかった気がします。第一版ではあまり思わなかったんですが、第五版ではその要素が強くなっていたので気づいたのですが、バフェットというのは、投資家であるのと同時に、経営者なんですね。だから、この本は、経営者視点で書かれた本なんです。
ところが、読む人は会社の経営をしたこともないし、会社の経営に関わったこともない人たちだから、経営がわからない。わからないから、何を言っているのかわからない、ということに私は気づきました。
どうも、「株式投資を知りたい」と言って、バフェットの投資手法を話しても響く人の比率が異様に低いのは、これなんです。経営者感覚を持っていないと、この本の意味は分からないんです。
仕事をする上で、経営者感覚というのを自然に持っている人とそうでない人がいます。これは、もう、やってみないと分からないというか、感覚がない人にはないんですよね。自転車に乗ったことがない人が、自転車を運転する感覚を持っていないのと同じぐらい、何かが分からない。分からないのもしょうがない。
今回、第4版、第5版を読み直して、一人で納得してしまった次第です。
版を重ねた一番の違いは何か?
第1版ではなくて、第5版にはあるもの。そして、私が第1版を読んだけれども、第4版を読むまでわかっていなかったことは何かというと、インタンジブル・アセットの話です。英語だと、おそらく、Goodwill 日本語の会計用語だと「のれん」となる言葉です。「会計上ののれん」と「経済的なのれん」で分かれています。まあ、会計をかじったことがある人なら、のれんが最難関の概念であることは間違い無いだろうので、この時点で、「嫌だな」と思い始めるのでは無いでしょうか。しかし、これが、バフェットのいう「しけもく投資」という世の中で言われている「バリュー投資」という名の低いPBRとPERの株をあさる投資手法と、同じく世の中で「グロース投資」と言われる投資手法の別れ目ともなる概念なんですね。
バフェットの投資手法は、ベンジャミン・グレアムとフィッシャーから来ています。グレアムの方が話がよく出てきます。これは、完全な「バリュー投資」の概念です。まあ、これもちゃんと運用すれば、そこそこ儲かります。
こっちの理論をそのまま使うと、先程の会計上の「のれん」については、幻なので、純資産から引くことになります。私もしばらくそうしていました。けれども、バフェットさんは、その「のれん」を否定していないんですね。会計上では現れないのれんをバフェットさんは「経済的なのれん」と表現しているようですが、要するに、Economic Goodwillとかだと思うんですが、まあ、そんな概念です。実物資産としてはバランスシートに現れない会社の価値があるか、ないか、なんですね。これがたくさんある会社は、会計上ののれんも大きい場合もあります。バフェットは、大きいのれんを必ずしも避けていない。私は、会計上ののれんが大きな会社のバリュエーションが不利になるような計算を今までしていて、かなり失敗していると思いました。
その理由をバフェットさんは、インフレが起きた時で説明しています。ROEが低い企業とROEが高い企業があった時、どちらがインフレに強いかという話をしておりまして、見た目と違って、実は、ROEが高い企業の方がインフレに強いという数学的な話、会計的な話をしています。
私は今までこれを理解できていなかったんですが、第4版を読んでよくわかりました
100億円の売上で利益10億円の2社があるとします。
A社は、工場への投資が5億円必要で、B社は100億円必要だとします。
2倍にインフレすると、
A社もB社も売上は200億円に上がります。
A社の投資は10億円ですみ、
B社の投資は200億円必要になります。
B社はお金がないので借金をすることになりますが、A社は借金の必要がありません。
減価償却費が5年だとすると、
A社は、減価償却が2億円
B社は、減価償却が40億円
なので、差し引き38億円の利益の違いが出る。
なので、インフレを想定するなら、より儲かるROEが高い会社の方を投資対象にすべき、という内容です。
このように実物資産が小さくても利益を生み出せる企業は、高く売れます。買収すると、買収した会社のバランスシートに、会計上ののれんが大きく計上されるようになるわけです。
まあ、「会計上ののれん」に資産の意味がないのは確かなのですが、これが大きいからといって、投資を避けるようなことはしてはいけないということが、私にはよくわかりました。「会計上ののれん」を引いて、「経済的なのれん」を足す、が正しい処理でしょう。
いわゆる、ブランド力と言われるようなものが、「経済的なのれん」を構成しています。ブランド力や知名度は、バランスシートには乗りません。が、確かに実在しているわけです。
これを実際のバリュエーションに反映させないと、安全余裕度をちゃんと計算できないので、投資を間違えるんですよね。私の投資は、一番ここが間違っていると思いました。バフェットも、これに気付くのに20年かかったそうです。
私は、安全余裕度(Margin of safety)を試算するときに、将来の純資産を査定する方法と、DCF予測から査定する方法を併用し、二つの異なる数字の中で、バランスをとっていました。ある企業では、この二つの数字は大きく異なるんですよね。
DCF法はやったことがある人ならよくわかりますが、売上成長率の評価額への感度が大きいので、数字がぶれやすく、結構、純資産の査定も重視してました。そして、その純資産の査定から、インタンジブル・アセット(無形固定資産)の額を取り除いて計算していました。
でも、今回第五版を読んで、やっぱり、DCF法の法の数字が正しいのだと確信を持つようになりました。
DCF法での評価って、結局経営者の仕事なのよね
さて、そんな不安定なDCF法でのバリュエーションをしていくとなると、バランスシートの資産を評価し直したり、将来の投資額がどれくらいかかるのか分からないといけなくなるんですよね。
例えば、鉄道会社のバリュエーションをやるとして、投資C/Fを精査する際に、今後50年間にかかる線路への投資額、駅舎への投資額、車両への投資額などを見積もれる必要があるんですよね。そして、新興勢との比較においては、古くから持っている線路の土地の価格差が、どう競争力に影響を与えるのかなどが、数字で試算できないと、正しい評価額は出てこない。社会人経験のない大学→MBA直の20代の金融関係のアナリストが予測を当てられるわけがないのが、このコストなんですよね。
でも、バフェットさんは、特定の業種においては、だいたいこれができる。こんくらいの額でしょ、というのが見積もれているから、評価ができて、「あ、これ、儲かるね。投資しよう」となる。
バークシャーみたいに資本が大きくなると、大きなお金を使って、大きな利益を確実に生み出す事業を探す必要がある。そうなると、風力発電とか、鉄道(と言っても貨物)などの事業を持つに至る。私には分からないけれども、貨物鉄道への設備投資も、電気事業の多分風車への投資も、確実にそこそこの利益が取れる資金の置き場所なのだと思われる。
んでもって、サイバーエージェントとかソニーとかのことについて思いを馳せてみる
そんなバフェットさんの手紙を読みつつ、ウマ娘が大ヒットのサイバーエージェントとか、ソニーの事業に思いを馳せるわけです。
サイバーエージェントは、広告代理店 と abemaなどの赤字のメディア事業 と スマホのゲーム の会社です。その複雑な資本構成などとともに、バリュエーションを難しくしているのが、ゲーム事業のソフトウェア資産、ソフトウェア仮勘定という資産項目です。
まあ、会計の実務を知るとびっくりですが、このソフトウェア資産って、ゲームを作るのにかかった人件費が積まれるんですよね。例えば、1人の天才エンジニアが作った「いけてるゲーム」があるとします。これが、1000万円かかってできたとしましょう。次に、100人の平凡なエンジニアが作った「クソゲー」があるとしましょう。こちらは、10億円費用がかかったとしましょう。
この二つのゲームが、ソフトウェアの価値としてバランスシートに資産として載るのですが、「いけてるゲーム」の資産価値は1000万円、「クソゲー」の方の資産価値は10億円です。
実際は、後者の「クソゲー」は、ソースコードもぐちゃぐちゃなので、きっとメンテナンスにも人がたくさん必要で保守コストがすごくかかります。かかるけれども、「クソゲー」なので、売上はない。将来は、赤字しか生み出しません。この「クソゲー」の運営を止めると、ソフトウェア資産10億円がなくなるので、特別損失10億円となります。これは、資産というより負債です。
一方、「いけてるゲーム」は、バランスシートの1000万円から売上がガンガン生み出されます。ソースコードも綺麗で、保守コストもあまりかかりません。将来は黒字しか生み出しません。こちらは、ダイヤモンドより貴重な資産であり、財産。
さて、10億円の資産から赤字しか出てこないのと、1000万円の資産からジャンジャン黒字が出てくるわけです。会計上の資産の査定はあっているとは到底思えないわけです。これが、ソフトウェア資産、ソフトウェア仮勘定の正体なんです。
で、サイバーエージェントは、このソフトウェア資産の減損(つまり、クソゲーにかけたお金)が毎年すごいことになっているわけです。
まあ、資産化すんなよ、って話なんですけどね。
という中で、「ウマ娘」のようなゲーム(こっちは、会計上の資産額も大きそうなゲームではありますが)もあるわけで、ああ、バリュエーションって難しいよね、と思うわけです。
バフェットは、モバイルゲームのバリュエーションはできないと思いますが、この見極めが貨物鉄道とかエネルギー産業ではできているんだと思うんですよね。すごい。
あと、思いを馳せたのが、ソニーさん。
今や、ゲームとか、映画とか、音楽とかの会社です。
ここでは、音楽の会社の価値を考えてみましょう。
さて、あるアーティストの歌の版権を持っているとします。この価値はいくらでしょうか?そして、その版権から、将来いくらのキャッシュフローが生み出されるでしょうか?
さて、この版権、いくらでバランスシートに載っているんでしょうか?
でも、明らかに、人気アーティストの歌の版権は大きなキャッシュフローを生み出すでしょう。
でも、その額を適切に評価するのは、難しい。難しいけど、儲かる。まあ、ソニーのCEOは有能なので、その価値がわかるんでしょう。
そして、バフェットは難しいことをしない
と、難しい話をしました。
実際、バフェットさんは、モバイルゲームのバリュエーションはしないし、音楽レーベルの版権の価値を算出することもできません。もっと、試算のしやすい業界で、これが見積もれるんですね。
でも、この不確定なバリュエーションの作業がちゃんとできるって、考えれば考えるほど、当該業種における経営者としての能力なんですよね。
これができるところだけ投資しろ、自分のわかる範囲の業種で投資しろ、とバフェットさんとマンガーさんは言っているわけです。
ま、バフェットさんを真似するのも簡単ではございませんな。