書評『イノベーターの条件―社会の絆をいかに創造するか 』(P.F.ドラッカー)
ドラッカーは、社会について分析して書いている。この本の邦題は全く実態と異なっていて、原題の"The Essential Drucker on society"が正しい。「社会に関するドラッカーの洞察のエッセンス」あたりが内容を示している言葉であろう。
この本は、数々のドラッカーの社会に関する著書のまとめである(ドラッカーは基本的に、社会生態学者である。これからの社会の変化を読んだ上で必要なのがマネジメントだったので、マネジメントの研究もしたが、基本的には社会に関する著者が多い)。ドラッカーの著書をたくさん読んでいくと、重複が多いことに気づく。この本は、他の本からの抜粋なので、ほぼ全編にわたり、私は読んだことのある話であった。「はじめて読むドラッカー」シリーズなので、これはこれで正しいのだろう。ただ、個別のタイトルを読んだ身としては、物足りない。好きな音楽アーティストのベストアルバムを聞いているような物足りなさを感じる。
ただ、全体を通じてドラッカーが言いたかったことは、私なりにまとめると、以下の二点である。
1:昭和後半と平成は時代の狭間で、社会に大きな変革が起きた変動期だ
2:全体主義は機能しない
1の主張については、社会構造の変化を具体的に説いている。多元化する社会であり、高齢化社会であり、グローバル社会であり、脱工業化であり、知識社会であり、教育・学習の変化である。
2の主張は、「みんな(=社会)にとっていいことをしようとして、個人を犠牲にすると第二次世界大戦のような殺戮の悲劇が起きる」ということであろう。昭和という時代は、その失敗の歴史であり、共産主義・社会主義・ファシズムはその失敗例である。精緻な事業計画を含めた、計画経済の終わりでもある。
結果的に、ドラッカーを読んできた今年を締めくくる著書としては良かった。何故なら、良い復習になったからである。しかし、個人的には物足りなさを感じる本である(何しろ、nothing newで、テンションが上がらなかった)。
もしかしたら、タイトルの通り「はじめてのドラッカー」ということであれば、読みやすいのかもしれない。しかしながら、多くの上田さんの著作がそうであるように、抜粋が過ぎて、具体例が省かれ過ぎで、本質のみを書いている部分があるので、この一冊でドラッカーの主張を理解するのはかえって難しいのかもしれないとも思う。少し舌足らず、説明不足なのかもしれない。
「ドラッカーってどんなことを言っていた人なのかを知りたい」という人にはお勧めできる本であろう。