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書評:『文明崩壊 上巻』(ジャレド ダイアモンド, 楡井 浩一)

原題が"Collapse"で、「崩壊」の意味。崩れ落ちる、崖崩れのようなイメージを持つと内容にあうと思う。文明崩壊と邦題をつけた意味もわからなくはないが、文明の持つイメージが強すぎるなあと。

毎度おなじみのジャレド・ダイアモンドさんであり、私はその豊富な事実・調査に裏付けられた様々な考察のファンである。今回は、滅びちゃった人々について考察している本である。その上巻。

同じようなものが、片方は滅びて片方は滅びなかった。その違いはなんなのかを過去の歴史事例を元に調べていくのがこの本である。

歴史といっても、昔の歴史とは21世紀の歴史は違う。21世紀の歴史は科学と共にあり、文献や伝承などだけに頼らずに、放射線による年代測定などを利用して科学的な過去の検証を併用するのがジャレド・ダイアモンドさんの歴史である。文字で書かれた歴史というのは権力者の都合の良いように改竄されているのが普通であるから、間違っていることも多い。都合の悪いことは記録に残さない。でも、科学による検証はそれを暴くので、真実に近く。最近の歴史は、年号覚えてるだけのバカとは違うので面白い。伝説と歴史は違うのである。

様々な事例を元に、社会が崩壊した事例を科学的に辿っているのが面白い。二つの牧場から話は始まり、現代のモンタナの話が続き、イースター島がどう滅びたのかに続く。その次は、南太平洋の島々で人間が入植して全滅した島とそうでない島。続いて、北米大陸に昔住んでいた人たち。続いて中米マヤ文明。そして、ヴァイキングのグリーンランドと話が続く(私は、漫画の『ヴィンラント・サガ』を楽しみに読んでいるのだが、登場人物の名前からして、この漫画の人たちの話である)。この辺りで上巻が終わる。

かつて私は生物の絶滅について生物の学者から聞いたことがある。簡単にいうと、「個体数が一度増えすぎて、食料がなくなって、全滅する」である。全く、人間社会も同じであるのが面白い。結局、人口を増やしすぎて、土地に過剰な負担をかけて、自然を破壊し、食糧生産がおぼつかなくなって、人が死んでいき、マチはなくなっていく。豊富な文献研究、論文研究、科学的な検証の数々を比べた各事例の絶滅の生々しさがこの本の面白さであり、示唆深いと私は思ったのである(まるで株価がバブルの暴騰の後に崩壊するようだ!)。

各事例の印象に残ったことを備忘がてら書いてみようと思う。

最初の牧場の話

米国にある牧場とグリーンランドにある農場。場所は違うが片方は今は廃墟で、片方が今も残っている。グリーンランドの方は土地の力を壊して、全滅している。詳しくはグリーンランドの方の載っている。この例がわかりやすく、次の事例に続いている。

モンタナの話

モンタナという綺麗な都市が米国にあるらしい。昔は鉱業をやっていた寂れた土地なのだが、最近は景観が綺麗なので、西海岸の金持ちの別荘地として再開発されている。その結果、水の奪い合いになって、モンタナの街がやばいという話。

日本にいると水という資源は豊富なので水不足とは身近なものではないが、水資源の配分というのは、間違えると社会の崩壊を招く。モンタナのように、鉱業向けにただ住む人と、金持ち向けの別荘地という違う用途で土地が使われると、その土地の価値が違ってしまう。土地の値段が変わるのは、人間様の都合だが、水はお天道様の世界なので、人間ごときの都合には従わない。水資源は、うまく使わないと社会が崩壊するという話。崩壊しつつあるモンタナの話。

イースター島の話

イースター島の詳しい話が書いてある。「石の移動がどうのこうのがミステリー」ぐらいしか知らなかったのだが、そんなのミステリーでもなんでもないことが分かった。火山があって、山の方の石切場から下の方に石を転がしてきただけ。具体的な方法はともかく、位置エネルギーを使えばまあできるだろうねという話。

論点はそこではなくて、そこそこ栄華を極めたイースター島が、どうして滅びたかなのだが、こちらの絶滅の原因は木の絶滅である。

森林破壊の限りを尽くして、森林と木がなくなって、食料となる動物を取り尽くして、食料がなくなり、争いが起きて、壊し合いが続いて、絶滅。

貴重な材料としての木材を失うと、辛いし、食料源としての森をなくすのも痛い。

ピケトアン島とヘンダーソン島

イースター島の西にある不便な島々。人が絶滅したところとそうじゃないところがある。衛星国のようなものなのだが、資源が足りなく自活できない島というのがある。他の母艦との交易がないと生きていけない存在の島と、自給自足が成り立つ島である。その違いがよく出ている。

生活に必要な道具を作る石とか、食料とかを他の島に頼っていると、他の島が戦乱になると資源が足りなくなって絶滅するという話。観光向けの一本足打法をやっていると、安定しないというような話で、特産品頼みに「選択と集中」戦略の生存におけるひ弱さを生々しく教えてくれる。

「言われて見ればそうだよなあ」なのだが、江戸時代は自活していた日本が、今や自給自足からは程遠いわけで、安全保障や日本人の生命など、色々考えさせられる事例である。

生活に大切なもの、資源は自分で確保した方が良いよねという話。

米国のアナサジ族とその隣人たち

水の争いだった。人口を増やしすぎて、水がなくなってダメになる。水のない地域で生き残るには、3つしか戦略がないらしく、山の上に登って雪解け水をとる、谷の地下水をとる、灌漑で川から引いてくる。

この中で、灌漑というのは知恵なのだが、灌漑施設というのは結構壊れる。洪水とかで川がえぐれると水が流れなくなってしまう。そうすると、食糧生産がおぼつかなくなって絶滅する。

最初は無理のない水の使い方をしているのだが、必要以上に都市の規模を大きくしてしまうと水が不足するようになる。それで、井戸も枯らして、The Endのような話である。

乾燥した地帯で水というのは重要だ。

マヤ文明の崩壊

これも人口の増えすぎ。畑にできるような土地が少ない中、条件の悪い土地まで畑を広げてしまい、中核都市自体が崩壊したという話。

森林を壊すと、雨も降らなくなるし、土地が荒れる。

アイスランドの話

ヴィンラント・サガの世界の話である。基本的に人がいない時には森林があったのだけれど、北の土地だとその回復力は弱い。無人の頃はよく森林があるが、人が行って、森林を破壊し、牧草地にして、羊や牛を飼い出す。すると、森も草もなくなり、土地の表皮が剥がれる。吹きっさらしの土になって、雨も降らなくなって砂漠化して、島が荒れるという話。

小笠原列島に聟島というヤギ害の島があり、私はそれを思い出した。土地の回復力がないところで、森林破壊と草地の破壊をすると、回復力以上のダメージが与えられて社会が崩壊する。

最初にあった森林は、長年少しづつ積み上げて作った森林であって、一年一年の積み上げのスピードは遅い。少しづつ増やしてきた貯金が溜まったのであって、年収は低いのだ。それを、溜まった貯金だけ見たよそ者が一気に使ってしまうと、あっという間に貯金だけがなくなる。

フローの範囲内で生活しないと、一見ストックが積み重なっていても、すぐに貯金は使い果たしてしまうねという話。宝くじで1億円当たった年収の低い人(無人島のアイスランドを見つけた民)が、破産に突き進んで行ってしまう感じ。お金ならどうでもいいんだけど、土地という自然の資源はそうも行かない。森林は大事に使おうねという話。

グリーンランドの話

多分、著者は上巻でこの話を一番したかったんだと思う。グリーンランドにノルウェーの人が移住している。その話が漫画になっているヴィンラントサーガである。

グリーンランドは非常に厳しい土地だ。基本的に北極に近すぎるのがその原因なのだが、ごくたまに人が暮らせる土地がある。そこの伝説の人たちは街を築き、ヨーロッパチックな生活を持ち込むのである。

たまたま機構が温暖だったせいで、最初は持ちこたえる。そのうち、欧州本土との交流がなくなり、厳しい自然環境の中で、再び森林が枯渇し、草が剥がれて、表土が削られ、土の豊かさがなくなり、牧畜もできなくなって、イヌイットとも喧嘩して、The endである。

一方、北極に強いイヌイットさんはたくましくその土地で生き抜くのであるが、彼らの方は知恵があるのである。中世のキリスト教の凝り固まった考え方では、厳しい環境では、絶滅しかない。

のびのび生きられる環境がよい場所と、そうではない環境が厳しい場所がある。環境が厳しい場所では、機構が良い時代は良いが、悪い時代に一気に辛くなる。

環境というか、土地の地力の範囲内に人口を収めないと、絶滅してしまうのが生物である。

こちらも、「年収が低いのに宝くじを当ててしまった人たちが、宝くじの賞金を使い切った後にも生活レベルを落とせず、破産してしまう」という話。そして、生活にコストのかからないイヌイットは生き延びるわけですな。

感想

言われてみれば当たり前の話なのだけど、多くの人々はできていないから、人や生物は絶滅するのだと思う。社会の絶滅も含めて、これが生物の営みであるので、そんなもんなんだとも思う。

が、実に示唆深い。

企業の経営という意味でも、栄枯盛衰という意味でも、株式市場という意味でも、全部同じようなことになっていると思う。与えられた環境に安全余裕度を持って暮らしをしないと、なんか環境にショックがあった時にすぐに絶滅してしまうのだ。ギリギリでやろうとすると、儲かるのだけれど、なんかのショックですぐ死んでしまう。安全余裕度、重要である。

生存戦略には、選択と集中など糞食らえである。

生き延びるために大事なのは、図体を必要以上に大きくせず、環境の地力の範囲内で生活をすることである。生きるための資源をしっかり確保することである。何もかも集中せず分散していた方が資源の確保は容易だ。

下巻は、どうすべきかを話題にするみたいだから、今後も楽しみである。

良い土地に、田舎に畑と土地でも買おうかなと思わないでもない。

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