書評:『人生に打ち勝つ 野村のボヤキ』(野村克也)
この本は、野村監督が思う野球の指導方法について書かれています。
本のタイトルが良くないですね。
私は野球ではなくサッカー派で、野球と言うと、小学生時代の草野球しかないし、そもそもプロ野球は年に5分も見ない人間なんですが、監督としての野村監督は好きな方です(嫌いな人が多い事は知ってます)。
私がなぜ野村監督を好きなのかと言うと、この人は結果を出すからです。しかも、「インプットが大きいからアウトプットが大きい」という種類ではなく、明らかに限られた予算と人材で、プロ野球で勝つから、この人には才能があると私は思う訳です。
ドラッカーの著作をいろいろ読んで、この本を読むと、野村監督が優秀なマネジメントであることが分かります。この人は野球が大好きで、その成果を出す為に考えて努力して、言葉を選んで選手を動かします。適当にやっているのではなく、深い考えがあってやっている。プロフェッショナルの人なんですね。野球を通じて、プロフェッショナルのあり方が全編語られています。その考え方は、勿論野球以外に通じると思います。
面白かったのは、野村監督は人を褒めないんですね。褒めない選手育成なんですね。でも、怒鳴り散らしている訳じゃないし、選手のミスを指摘するだけ。褒めない子育てを否定する人は多いですが、この本を読むとよくわかる気がします。褒めて育てても、プロとしてはやっていけない。叱るようにみせて、選手に期待を伝える言葉等、この人の言葉はテクニックじゃなくて、本当に巧みだなと思います。野球のマネジメントなんですよね、本当に。
笑ってしまったのは、銀座の一流クラブに通って、巨人の選手がいたら、そいつが指名していた女の子を指名して、その選手の情報を入手する。それで、仕入れた秘密を、キャッチャーだった野村は、バッターにささやく。バッターは動揺して実力が出せない。そこまでやるのかなと思うほどやる。なんて、エピソードも載っていました。
あと、
「『思い切って打ってこい』は指導じゃない。監督として最悪」
というのもあって面白かった。
「コーチとか上司がする指導と言うのはHowが言えなきゃダメ」
「『こうしろ』と言うと、一部の責任を監督が取る事になる。『監督のいわれた通りにやったけど、ダメでした』という逃げ道ができるから、選手の負担が少なくなって、結果思い切ってプレーできる」
と言っていますが、なるほどなと思いました。
「監督って暇ですね」と言った東尾監督をバカと言いきって、やっつける為に徹底的に研究して、日本シリーズでぼこぼこにしてやった、という野村監督なりの野球愛もあって、なかなかに面白く読ませて頂きました。
人をちゃんと育てられる人というのは、ここまで徹底してやっているのだと言うのが分かる一冊だと思います(でも、息子さんの子育てはうまくいかなかったのは、なぜなのかとも考えてしまいました)。