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書評:『家康の誤算 「神君の仕組み」の創造と崩壊 』(磯田 道史)

続けて、磯田さんの本です。

江戸時代という安定した平和の時代がどういう仕組みで出来上がっていて、それがいかにして壊れていったのかを書いて、明治維新の話も少し書いてある本が、これです。なるほどなあと思うんですよねぇ、日本という国を理解する上で、この本は面白い。

近年、若者の間で言われている言葉に、JTCというのがあり、これは、"Japanese Traditional Company"の略で、日本の伝統的な企業、ということで、古い体質の日本企業をディスってる言葉なんですね。まあ、古臭いルールが多くてやってられない、ということなんでしょうが、このJTCの悪癖のほとんどって、徳川家康の作った江戸幕府の体制から来ているというのも過言ではありませんね、多分という、感想をこの本に持ちました。

この本の最初には、「家康はなぜ、幕藩体制を作ることができたのか」から始まります。この辺りは、こっちの方を読めばわかるかなあという内容。

この本を先に読んでいたので、得るところは少なかった。

次に、安定していた江戸時代を壊したのは何かを書いているのですが、これは、何が安定をさせていて、それを壊したか、が書いてあるので、学びが多かったです。6個あります。

私は、ジャレドダイアモンドさんの本が好きですが、これを思い出します。

この本、原題が"Collapse"で崩壊なんですが、この英単語の意味って、壁がボロボロと崩れて崩壊する感じの崩壊なんですよね。家康が作った安定した江戸時代が、ボロボロと壊れていく様が人間模様を通じて書かれている。

改易をなくしちゃったから、外様大名が死ななくなって反乱勢力ができた。人質制度をなくしちゃったから幕府が恐れられなくなった。城と大船の建造禁止をやめて転覆の軍事力ができちゃった。新たな通貨の鋳造を許可しちゃって、討幕の資金源ができた。外交の不安定な動きで、最後は、誰もが政治に参画ということで、外様などを政策決定に組み込んだ民主化の動きが癌になったと。

なんかね、民主主義じゃないんですが、徳川幕府を安定させる仕組みって、徳川にとっては合理的なんですよね。

それから、天皇家の憧れというソフトパワーで出てきて、徳川家が崩壊するんですけど、伊勢参りなんかも影響があって、そういう話が書かれております。

その次に明治時代の話が書いてあるんですが、磯田さんは武士の子ですから、明治維新がお嫌いですね。私も一緒ですよ。嫌いです。岩倉具視使節団がいない間に大隈重信が色々やったとか、伊藤博文が偉くないとか、結構明治時代の人が自分勝手に歴史動かしてるのがわかります。あんまり、国民のためとか考えてなくて、結構自分勝手だなあと。

最後に、徳川の考える幸せとか家の保持の考え方が書いてある。戦国時代の世相にはあったんだろうけどね。この辺りを一通り読むと、JTCが生まれる背景というのもよくわかる気がするんですよねぇ。

オーナー企業がその権利を守りたい時に、徳川家康の歴史は本当に役にたつと思いますね。パブリックカンパニーが時価総額を上げるのに役には立たないだろうけど、プライベートカンパニーが存続するためには徳川家康のやってたことは、結構使えると思う一冊でした。

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