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ティアマト再び(2)
前回に引き続き、今回はティアマトの形態として女神を取るパターンについて考察していきます。
これはドラゴン形態のティアマトに続きて人気のあるもので、作品にもよりますが原初の女神ということで圧倒的な美女として描かれ、メソポタミアの意匠を取り入れたデザインにされることが多いと思われます。
このメソポタミア的衣装というのはメソポタミア地方のシュメール文明で見つかっている各女性を模した像を基にすることが多いように思われます。
特にティアマト神の基になったと思われる水の女神ナンムの像と想定されているものは人気が高く、よくモチーフのもとにされています。
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また、同時にこの謎の蛇面の子供を抱えた女性をモチーフにするのも人気がありますが、これは本当に何の意図があって作られたのか不明で、他の像とも意匠に大きな違いがあることから扱いが難しいものとなっています。
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これらを踏まえてか、現代の創作では、完全な女神の形で描かれるというのは稀で、また、センスとしてどうしてもモチーフとして惜しいのかドラゴン/蛇の意匠を入れてみたりすることが多いので、女神=美女にしたい+かっこいいドラゴン/蛇を合わせたいという現代のアーティストの欲望の方が優先されている結果のように思われます。
では、実際のところどうなのかというと、これまた原典には記載がありません。
人間の形をしていないともの書いていないのである程度自由だとは思うのですが、エヌマエリシュの描写にはティアマトがあまり人間体だとは思えないものがあったりします。
例を挙げますと…
・(マルドゥクとの戦いの場面で)
ティアマトは口を大きく開け、(マルドゥクが放った)悪風を飲み込もうとした
・(ティアマトを殺した後で)
マルドゥクは彼女の尾をひねり、巨綱として繋いだ
<出展>
といったものがあり、大きな口は人間の頭でも開けることはできるかもしれませんが、巨大な尾があることは明確なので、少なくとも普通の人の姿をしていないのは間違いないでしょう。
また、何度も引用しているWiggermann氏の論文によると、どうも原初の神々と言われる存在は基本的に「人ではなく動物かその混合体のような姿を想定されていた」ようなのです。
この辺りはまだまだ神話学としても議論があるところなのでしょうが、人間の信仰というのは
・自然信仰
↓
・自然の力を操る英雄
↓
・都市・民族の神
といった順番を辿ると考えられるのだそうです。
そして、元々は自然そのものや動物といったそのものを信仰していた時代から、それを操ると信じられたシャーマン的な存在が現れ、そのシャーマンが動物ないし人外の姿を取ることから神もそれを模したものとなり、都市が発達し始めると今度はその人外的な要素は逆に可能な限り排除されるようになります。
ティアマトがどの段階の神だったのかを想像するのは難しいのですが、少なくともマルドゥクのような都市の発達と共に信仰が拡大した神とは違い、原初の神ともされているように動物か半人半獣のような存在と考える方が妥当だと思われます。
残念ながら創作に置いてティアマトに"尾"を与えたデザインはまだまだ稀なので、これから想像する余地がいくらでもあるということになります。
ここから自由に想像していっても良いのですが、全くの手掛かりなしというのも何なので、次回はこのトピックの最終回として、これこそがティアマトなのではないか?という案について語っていきたいと思います。