トリビュートアルバムへのいざない (その3):多彩なアーティストが織りなす「井上陽水」の世界(元教授、定年退職165日目)
前回のユーミンさんの紹介に続き、今回は井上陽水さんのトリビュートアルバムについてお話しします(タイトル写真:注1)。ユーミンさんと陽水さんはほぼ同世代のシンガーソングライターで、ユーミンさんは「女陽水」(もしくは「女拓郎」)といった異名をつけられるなど、何かと比較されていました。たしかに音楽的には対照的で、例えば「傘がない」と「ルージュの伝言」では、陰と陽の世界でしたが、それぞれがこの時代を象徴していました(下写真)。
陽水さんについては、ユーミンさん同様、今さら説明の必要はないでしょう。陽水さんがデビューした頃、私は中学生で、彼の音楽の魅力は理解しきれませんでした。しかし、大学時代に少しバイト代が入るたびに、デビューからのアルバムを次々と購入し、彼の世界に引き込まれていきました。最初に手に入れたのは「断絶」「センチメンタル」「氷の世界」でした。
この文章を書くにあたって久しぶりにこの3枚を聴き直してみました。もちろん一曲一曲のパワーに圧倒されるだけでなく、アルバムごとの統一感やデビュー直後の勢いを強く感じました。特に「断絶」と「センチメンタル」はその色が濃く、日本レコード史上初の LP 100万枚突破した「氷の世界」に至るまで、力がみなぎっているようでした。(<追記> 参照)
アルバム「氷の世界」は説明不要なほど良く知られた作品です。陽水さん独特の音楽性(当時のフォーク界では少しロック寄り)を示し、忌野清志郎さんや小椋佳さん(当時、まだ公の場に姿を現していませんでした)との共作もあり、まさに多彩で力強いアルバムでした。
思わず熱くなり、話が逸れてしまいました。今回はトリビュートアルバムの紹介ですね、話を戻します。陽水さんは、安全地帯、PUFFY、中森明菜さん、山口百恵さんなど、多くのアーティストに楽曲を提供していますし、彼自身も多くのアーティストによりカバーされています。
トリビュートアルバムはこれまで2作あり、それぞれの時代を代表するアーティストたちが参加しています。2004年の「YOSUI TRIBUTE」(フォーライフ)では、平原綾香さん、奥田民生さん、松任谷由実さん、忌野清志郎さん、布袋寅泰さん、玉置浩二さんなど、そうそうたる顔ぶれになりました。また、2019年のデビュー50周年記念「井上陽水トリビュート」には、King Gnu、椎名林檎さん、宇多田ヒカルさん、細野晴臣さん、斉藤和義さん、槇原敬之さんら、世代を超えたアーティストたちが参加しています。
中でも印象的なのは、彼の「少年時代」を、2004年版では忌野清志郎さんが、2019年版では宇多田ヒカルさんが歌っていることで、それぞれ全く異なる感性が表現されていました。私の個人的なお気に入りは、2004年版では布袋寅泰さんの「東へ西へ」、奥田民生さんの「リバーサイドホテル」、UAさんの「傘がない」です。2019年版では、King Gnu の「飾りじゃないのよ 涙は」、斉藤和義さんの「カナリア」です。これらのトリビュートアルバムを聴くと、参加アーティストたちの陽水さんへの深いリスペクトと、オリジナルを尊重しつつも、自分なりの解釈で新たな音楽を模索する姿勢に心を打たれます。
このシリーズを執筆することで、私自身も懐かしい音楽に浸らせてもらっています。今回は陽水さんを取り上げましたので、次回は拓郎さんの紹介をしないわけにはいきませんね。次回もお楽しみに!
−−−−
注1:NHK 「井上陽水 第二夜」より
注2:NHK 「陽水の50年〜5人の表現者が語る井上陽水」より
注3:NHK BS 「深読み音楽会『井上陽水』」より
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?