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「親も楽だから」の物理学: カモの親子の隊列泳ぎからチコちゃんが学んだもの (元教授、定年退職315日目)
高校時代、休講の時間や、ときには授業をサボって(汗)、私は友人と物理の教員控え室によく入り浸っていました。主な目的は、大学を出たばかりの若い先生でしたが、他の先生方も優しく、話し相手になってくださいました。勉強の質問をしたことはありませんでしたが、当時流行していた因幡晃のレコードや筒井康隆の小説の話をして楽しいひとときを過ごしていました。先生のカップヌードルを勝手に食べて激怒され、慌てて買いに走ったことも、今や懐かしい記憶です。しかしこの和やかな日常とは異なり、物理の試験は非常に難しく、学年平均が 10~20 点台(100 点満点)になることもありました。私もその平均点アップに貢献できるはずもなく、物理の道を諦め、化学の道へと進むことにしました・・・。
NHK「チコちゃんに叱られる!」で取り上げられた、カモの親子が一列に並んで泳ぐ理由
そんな私ですが、先日 NHK の「チコちゃんに叱られる!」で、「なんでカモの親子は子どもが後ろに並んで泳ぐの?」という疑問が取り上げられ、非常に興味を惹かれました。以前の大学にいた頃、図書館横の池にカルガモ一家が現れ、学生たちのアイドルとなったことを思い出しました(大学側では警備員を雇ったり新聞取材が来たりと大騒ぎでした)。陸上ではバラバラに歩くのに、水に入ると親ガモの後ろに隊列になってスイスイと泳ぎます。その光景を微笑ましく眺めていたものの、なぜそうするのかは当時考えませんでした。(下写真もどうぞ)
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番組でのチコちゃんの答えは驚くべきもので、「親も楽だから」だと言うのです。「親『も』」とはどういうことか? 私は番組に引き込まれました。(タイトル写真:注1)
子ガモが楽な理由: スリップストリーム効果
解説を担当した生物流体力学の望月先生によれば、後ろの子ガモが楽なのは、スピードスケートや自転車競技で見られる「スリップストリーム効果」と同じ原理です(下写真)。冬のソチオリンピックで金メダルを獲得した日本女子パシュートを思い出すと、チーム全員が先頭を交代しながら、風の抵抗を減らすスリップストリームを最大限に活用していました。
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望月先生は、アヒルのおもちゃを用いた実験で、その効果を視覚的に示しました。親ガモに見立てたおもちゃを引っ張ると、後ろの子ガモのおもちゃは、まるで吸い寄せられるようについてきます。その勢いは親ガモにぶつかるほどでした。私は、後ろは少し楽になる程度かと思っていたので、その勢いに驚きました。これは、親ガモが進むことで後方にできる低圧の領域に、水が流れ込み、その流れに乗って子ガモが引き寄せられるためです。子ガモの体重は約 30 グラムと非常に軽いため、この流れによって、親ガモ一羽の力で何羽もの子ガモが楽に進むことができるのです。(下写真もどうぞ)
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親ガモも楽な理由: 千鳥ヶ淵での実験
しかし、肝心の「親ガモ『も』楽になる」理由がまだ解明されていません。そこで先生は第2の実験として、千鳥ヶ淵でスワンボートを使用しました。1台だけで漕ぐ場合と、3台を連ねて漕ぐ場合を比較し、先頭のスワンボートの漕ぎやすさを検証しました。最新のテクノロジーを用いれば定量的な測定も可能ですが、今回は漕ぐ人の感覚での評価でした。ボートを漕いだ方は、証言台に立つように「正直に答える」と誓い(笑)、3台連なった方が明らかに楽だったと述べました。(下写真もどうぞ)
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先生は、その理由を物理的に解説しました。親ガモが1羽で進む際、後方の低圧部に向かって水が流れ込み、親ガモは逆方向に引っ張られます。しかし、後ろに子ガモが並ぶことで、この逆向きの流れが打ち消され、親ガモは後ろに引っ張られることなく、より少ない力で進むことができるのです。子ガモたちが後ろに一列に並んで泳ぐ理由が「親も楽だから」という答えに納得しました。(下写真もどうぞ)
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研究生活を始め、必要に迫られて物理も学ぶようになり、多くの物理研究者とも議論を交わすようになりました。現代の科学では、純粋な化学だけでなく、物理や生物といった分野との融合が重要です(生物物理化学という分野もあります)。そして理解が深まるにつれて、物理が非常に面白い学問であると気づきました。もし高校時代にこの面白さに気づいていれば、私の人生はまた違ったものになっていたかもしれません。気づくのが少し遅かったですね・・・(笑)。
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注1:NHK 番組「チコちゃんに叱られる!:カモの親子の謎」より