元教授、「100カメ、鎌倉殿の13人の舞台裏」を見てプロの奮闘に感心する: 定年退職173日目
今回は、NHK番組「100カメ」の視聴者投票で1位となった、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台裏に密着した回をご紹介します。「100カメ」は100台のカメラを駆使して、人々の飾らない姿を捉えるドキュメンタリー番組です。
2年ほど前の放送ですが、「鎌倉殿の13人」の中でも特に大規模なロケとなった回で、源頼朝により富士の裾野で行われた「巻狩(まきがり)」で猪や鹿を射る競技が再現されていました。200人以上の出演者、スタッフ、エキストラが、過酷な状況下でどのように撮影に取り組んだのかが見どころでした。(下写真もどうぞ)
「巻狩」は頼朝が権力を誇示する軍事演習でもありました。番組は、狩りに必要な「猪」のシーンの準備から始まりました。脚本の三谷幸喜さんが台本に一言「猪」と入れたことで、スタッフは茨城県の動物園まで出向き、猪の全力疾走を別撮りしました。ただ、猪を思い通りに動かすのは容易ではなく、スタッフは泥だらけになりながらカメラを持って追いかけ、なんとか迫力満点の映像を収めることに成功したのです(下写真)。わずか2カット、4秒のシーンでしたが、巻狩の世界観を表現する上で重要な役割を果たしていました。
このロケでは10日間かけてセットを組み、2日間(+予備1日)の野外撮影で100カットを撮影する予定でした。そのため、最も重要だったのが天候でした。実際の巻狩は初夏に行われましたが、ロケの日程は3月末、気温1.5℃の寒空の下で撮影が開始されました。無情にも徐々に雨が降りだし、さらには季節外れの雪へと変わり、ついには積もり始めたのです(下写真)。現場は大混乱に陥り、撮影を断念せざるを得ませんでした。スタジオで見守るオードリーも「心が痛いね…」とつぶやいていました。それでも、プロたちは動じません。鎌倉時代の装束を身にまとった出演者やエキストラたちは、誰一人として不平を言うことなく、粛々と衣装を解き、化粧を落としていきました。
ラストチャンスの撮影最終日(予備日)。幸運にも雨は上がり、積もっていた雪も溶け、撮影は快調に進み始めました。弓の名手ではない若君のために、家来たちが模型の子鹿を倒すという「小鹿大作戦」も成功。しかし、再び天候が不安定になり、今度は強風が吹き始め、最後は嵐のような状況に。それでもプロフェッショナルたちは、その嵐さえも「陰謀による波乱を予感させる」最高の舞台に変えてしまいました(ドラマ本編を見ると、あたかも嵐の日を意図的に選んで撮影したかのような仕上がりになっていました)。
強風で頼朝の本陣を覆う布や旗が飛ばされないよう、スタッフ総出で押さえる場面もありました(下写真)。最後までカットが撮れるかどうかわからない緊迫した状況でしたが、最後は奇跡的に1回でOKが出て、撮影は無事終了(タイトル写真:注1)。
私が特に感心したのは、壮絶な現場の中でも悲壮感はなく、皆が楽しみながら制作に取り組んでいたことです。映像全体を統括する演出(監督)のヨシダさんは、スタッフルームでは「メロンパンとカレーパンをなぜ取り違えたか」といった話をしたり、重要なシーンの直前に「家に帰ってゲームや料理をしたい」と呟いて周囲を和ませていました。ヨシダさんの明るいキャラクターが、スタッフ全体の雰囲気を明るくしていたのでしょう。そして、獅子奮迅の活躍だった助監督には「撮りきれて良かった。君がいたからだ」とねぎらいの言葉をかけつつも、「君がいなかったら・・・15分早く終わっていた」と冗談を言って笑いを誘っていました。
次回は、若手が挑戦する女子ボートレースに密着した「100カメ」を紹介したいと思います。また、お楽しみに!
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注1:NHK テレビ「100カメ」より