羊と人をつなぐ癒しの牧場物語 〜六甲山から島根まで〜 (元教授、定年退職301日目)
関東には、軽井沢、那須、箱根など有名な避暑地が多いですが、関西にはそれほど多くありません。大阪・神戸近隣では、六甲山が代表格と言えるでしょう。私もコロナ禍以前は六甲山をよく訪れ、ホテルに滞在しましたが、最近は少し足が遠のいています。その際、ゆったりと過ごすために訪れていたのが、六甲山牧場です。
羊とのふれあいが魅力の六甲山牧場
六甲山牧場は広大な観光牧場で、赤レンガのサイロが立つ場内では羊や牛がのんびり草をはむ牧歌的な光景が広がり、都会の喧騒を忘れて心身ともにくつろぐことができます。周辺の山々や神戸の街並みを一望できるのも人気の理由の一つです。約 170 頭の羊が飼育され、牧場内を自由に歩き回っているため、訪れた人々は羊たちと直接触れ合うことができます。特に子羊が生まれる時期になると、関西ローカルのテレビ番組でその様子が放映され、愛らしい姿は見る人の心を癒します。私もそのテレビ放送を見て、何度も車を走らせて会いに行ったものです。(下写真もどうぞ)
羊と暮らす、羊と生きる
羊は最も古い歴史を持つ家畜の一つです。牛や馬よりも古く、紀元前 8,000 年頃から西・中央アジアで家畜化が始まったと言われています(下写真)。肉は食用に、羊毛は衣類に、皮は革製品にと余すところなく利用され、当時の人々にとって「捨てる所がない」存在でした。羊は温厚な性格で群れで生活することを好み、先導する羊についていく習性があるため、人間が家畜として管理しやすい特徴があります。
「いいいじゅー」で知る島根の羊飼いの新たなステージ
先日、NHK 番組「いいいじゅー」で、羊毛牧場を運営する笠木真衣さんの特集を見ました。笠木さんは群馬県にお住まいでしたが、28 歳の時に「糸を紡ぐ」ワークショップで初めて羊毛に触れた際に大きな衝撃を受け、羊毛の世界に飛び込んだそうです。北海道の牧場で研修を受けた後、世界遺産・石見銀山のある島根県大田市の国立公園三瓶山(さんべさん)の麓に移住して5年になります。(下写真もどうぞ)
当初は4頭からの飼育でした(メエたちと呼んでいます)が、島根の雨が多く曇りがちな天候は紫外線のダメージを受けにくく、湿度の高さがしっとりとした羊毛を生むのだそうです。男性用ジャケットをイメージして作った生地は、2020 年の国内最大のテキスタイルコンテストでグランプリを受賞。さらに、パリで開催された世界最高峰の見本市に出展し、高い評価を得たとのことです(上写真)。
現在は、生地の販売を海外マーケットへ広げることを目指し、「レスポンシブル・ウール・スタンダード」というウールの国際的な認証の取得に挑戦しています。ウールの認証においては羊にストレスを与えない飼育環境が重視され、飼育方法が重要な要件となっているそうです(2000 年代以降、ファッション業界で動物愛護の機運が高まったことも影響しているようです)。
番組では、笠木さんの羊飼いとしての生活も紹介されていました。家畜の幸せも大切にする飼育方法を実践しており、羊に頻繁に話しかけたり、冬には茂った竹の葉を与えたりしていました。また、羊の健康管理や検査の重要性などの課題も見つかり、検査の計画と実施に取り組んでいるとのことです。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注2)
地域の人々にとっても羊は癒しの存在のようで、毎日のように余った野菜を羊のために持ってきてくれるそうです。逆に、夏には地域貢献として羊が農家に貸し出され、雑草を食べるという素晴らしい相互関係が構築されています(下写真)。私も久しぶりに六甲山牧場で羊たちに癒されに行きたいと思いました。
−−−−
注1:「六甲山牧場」ホームページより
https://rokkosan.jp/
注2:NHK番組「いいいじゅー:島根・大田市」より