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日本一の冷凍うどんができるまで: 美味しさを支える機械技術 @探検ファクトリー (元教授、定年退職245日目)

昨年9月末、学会出張で香川県高松市を訪れました。岡山までは新幹線で移動し、その後は快速マリンライナーに乗り継ぎ、瀬戸大橋を渡って瀬戸内海を越えました(学生の頃はフェリーの時代でした)。今回はせっかくの機会なのでグリーン券を購入し、二階建て車両の2階席へ。天気にも恵まれ、ほぼ貸切状態の車窓から瀬戸内海の風景を満喫できました。東西に席を移動しながら、写真やムービーを撮影することができ、幸運でした。

快速マリンライナー、二階建て車両の2階席へ
瀬戸内海の風景を満喫


香川には美味しいものがたくさんありますが、やはり外せないのは讃岐うどんです。到着後すぐに駅近くのうどん屋「めりけんや」へ駆け込みました。大阪にも美味しいうどん屋は数多くあり、特に出汁に関しては大阪が随一だと個人的には思っていますが、麺に関しては讃岐うどんに軍配が上がります。以前、研究室の遠足で香川を訪れた際には、車で3軒のうどん屋をはしごし、帰りの車中で苦しい思いをしたことを覚えています(汗)。


さて、今回の本題は「冷凍の讃岐うどん」についてです。NHK 番組「探検ファクトリー」で「日本一の冷凍うどん工場」の特集を観ましたので、それを取り上げます。番組で紹介されていたのは、テーブルマーク(株)(旧加ト吉)の魚沼工場(新潟県)です。同社の冷凍うどんは、強いコシともちもちした食感、そしてなめらかな喉越しが特徴で、年間6億食を製造する国内シェアNo.1を誇ります。特に関西では「冷凍うどんなら加ト吉」と絶大な信頼を得ています。

讃岐うどんの特徴(注1)

工場が香川から遠く離れた魚沼にある理由は、良質な水の存在です。この地域は国内有数の豪雪地帯であり、雪解け水が長い時間をかけて自然ろ過され、ミネラル分の少ない超軟水(硬度 13)が得られます。この水はうどん作りにおける「こねる」「茹でる」「締める」といったすべての工程において非常に重要な役割を果たしています。(下写真もどうぞ)

魚沼市と良質な水(注1)
超軟水な魚沼の水(注1)

「多くの職人が働いているのだろう」と思っていましたが、工場では職人技を数値化し、機械で再現することで高い品質と効率的な製造を両立していました(下写真)。製造工程は主に以下の四つに分かれています。

職人技を数値化し、機械で再現(注1)


1. ミキシング

材料の小麦粉、水、塩を混ぜる最初の工程は、うどんのコシの強さを決定づける最も重要な工程です。うどんは生地に含まれる空気の量で硬さが変わるため(空気が多く含まれるほど柔らかくなる)、真空でミキシングを行い、素早く確実に空気を抜き、コシのある生地を作ります(下図)。また、こねすぎるとグルテンが切れてしまうため、ちょうど良い加減を見つけるのが難しいそうです。 

うどんは生地に含まれる空気の量で硬さが変わる。右は真空でのミキシング(注1)

2. 生地伸ばし

職人が足踏みで生地を作る工程は、工場ではローラで生地を伸ばします。機械では、職人が行う作業の何百倍もの量を一気にこなすことが可能です。さらに、下写真に示すように、波型のローラーを使用し、多方向から力を加えることでよりコシのある生地を生み出しています。その後、生地を2時間以上熟成させ、緊張状態にある生地を緩和し、もちもちとした食感を実現します。

波型のローラーを使用し、多方向から力を加える(注1)

3. 均一な伸ばしと麺の切り出し

職人が麺棒を使って生地を薄く均一に伸ばす工程は、機械では適度な力加減で何度もローラーに通し、均一な厚さにしていきます。これが、なめらかな喉越しの麺を作るために必要です。その後、生地は包丁で1本ずつ切られていきます。麺の角を立たせ、側面を少しへこませることで、つゆが絡みやすくなっています。流れ作業の途中で不均一な麺は自動的に排除される仕組みも導入されています。(下写真もどうぞ)

生地は包丁で1本ずつ切られる(注1)
麺の角を立たせ、側面を少しへこませる(注1)

4. 茹で、急速冷凍

大量の麺をベストな状態に茹でるために、工場では麺を踊らせながらバケツリレー方式で茹で上げています。ムラなく茹で上がるため、喉越しの良さに繋がります。その後、茹でたてのうどんをトンネルフリーザーで冷やし、ー30℃ で均一に急速冷凍します。


かつては一子相伝とされた職人技も、現代では科学的解析により機械で再現することが可能になっています。特に、小麦粉、水、塩というシンプルな材料で作られるうどんだからこそ、技術による進化の可能性が広がっています。今後はAI技術の導入も予定されているとのことで、さらなる発展が期待されます。


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注1:NHK番組「探検ファクトリー:日本一の冷凍うどん工場」より

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