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モータの先端技術が拓く未来: 軽く静かに、そして触覚へ(元教授、定年退職179日目)

私は毎日 iPhone を手にしていますが、そのバイブレーション機能が実に便利です。かつてはアラーム音を使用していましたが、今ではほとんど場合、この無音の振動で事足りています。iPad で ApplePencil を使う際も、モードの切り替えを「ヴッ」と知らせてくれるので実にスムーズです。周囲への音の配慮が進む現代社会において、これらの機能を実現している立役者が、超小型振動モータです。

無音の振動が知らせてくれる私の iPhone とiPad


先日、お気に入りのTBS番組「がっちりマンデー!!」で「CM でよく見るけど、よくわからない会社」という特集を観ました。最初に取り上げられたのはニデック(株)(旧、日本電産(株))でした。CM で女優の川口春奈さんが社名を連呼するだけでは、この会社の事業内容はよくわかりませんでしたが、社名の認識度は抜群になったようです。

実はこの会社、年間売り上げ2.4兆円の大手モータメーカーで、本社は京都府最大のビルです。番組によると、軽量で、静かなモータの製造により、多くの分野で世界シェア1位だそうです(下写真)。

多様な軽量で、静かなモータ(注1)


近年の家電製品は、小型化・軽量化が進んでいます。その典型的な例は掃除機です(下写真)。私が数年前に買い替えた際も、その軽さに驚きました。何が魅力かというと、「今から掃除をするぞ」と決意が必要だった以前の重い掃除機と違い、いつでもすぐに取り出して気軽に使える点です(私でもw)。同社は「軽薄短小の技術」と表現していましたが、まさに掃除の概念を変える革新といえるでしょう。

昔の3分の1の大きさになった掃除機のモータ(注1)


「静かさ」もまた、重要な要素です。洗濯機を例にすると、以前はうるさくてベランダに置くほどでしたし、夜中の使用は近隣への配慮から御法度でした。しかし、現在の洗濯機は非常に静かで、常識の範囲であれば深夜の使用も可能になりました。忙しかった我が家にとっては、大変ありがたい進化でした。

番組では、この静音化の原理についても詳しく解説していました。従来のモータは、外側に永久磁石、中心に電磁石があり、ブラシが電磁石に接触することで騒音を発生していました(下写真)。一方、同社の新しいモータは、外側に電磁石を、中心部に永久磁石を配置し、ブラシレス化することで機械的な接点をなくし、騒音を大幅に低減しました。コロンブスの卵のような、素晴らしい発想の転換です。

ブラシレス化することで機械的な接点をなくし騒音を大幅に低減(注1)


さて、冒頭で触れた超小型振動モータに話を戻します。この振動モータでは、回転運動ではなく往復運動を利用しています。小さなモータの中で磁石が高速で動くことで震動を発生させ、それをスマホのバイブレーションに使用しているのです(下写真)。私の iPhone も iPad もこの振動モータのおかげで快適です。現在では、最小の振動モータは長さ1cm、幅3mmほどの大きさだそうです。

往復運動する超小型振動モータ(注1)


未来のステップとして、これらの技術を活用し、バーチャル世界で「物に触る、掴む」感覚を再現する技術の開発が進められています(タイトル写真、下写真:注1)。触覚を完全に再現できるようになれば、さまざまなバーチャル体験の可能性が飛躍的に広がります。番組では、モータ内蔵ペンを用いたデモが紹介されていましたが、画面の映像に合わせて手を動かすと、紙に書いているような感覚が体感できたそうです。

モータ内蔵ペンを用いたデモ(注1)


これから高齢化社会が進む中で、外出が難しい人々が増えることが予想されます。これらの超小型モータの新技術が「触れる」未来を実現することで、技術革新を通じて誰もが豊かな生活を送れるようになるかもしれません。バーチャルリアリティが私たちの生活に寄り添う時代が、必ず到来すると期待しています。

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注1:TBS テレビ「がっちりマンデー!!」より


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