アメリカで出会ったベーグルとアップルジュースの思い出: 元教授、定年退職212日目
ここ数回にわたり、30年前のアメリカでの話をお届けしてきましたが、今回はさらに思い出したことをお話しします。懐かしい食の思い出についてです。
ベーグル・タイム:化学者たちの交流の場
当時私の所属していた大学では、毎月最終金曜日(記憶が曖昧ですが)の夕方に「ベーグル・タイム」という集まりがありました。複数の学科が合同で運営していたと思いますが、参加は自由で、手の空いた人が大きな会場に三々五々と集まってきて、ただベーグルを食べながら雑談を交わす会でした。ノーベル賞受賞教授から学部生まで、実に様々な人が参加していました。ここで新しいアイデアが生まれたり、共同研究が決まることもあったそうです。私はというと、もっぱらお腹を満たすために参加していましたが(笑)。
初めて参加したとき、私は「ベーグル」という食べ物を知らず、どんなご馳走だろうと期待していました。当時の日本では、まだほとんど知られていなかったと思います(私だけ?)。研究室の友人たちから、「ニューヨークで人気のドーナツ状の食べ物だよ」と教えられましたが、渡されたベーグルはムチッとしていてずっしり重いのです。かじってみると歯ごたえがあり、独特の味で、正直なところ、それほどおいしいとは思いませんでした。すると友人が「クリームチーズをつけるんだよ」と渡してくれ、試してみると、これがなかなか美味しくて、それからはクリームチーズをたっぷり塗って食べるようになりました。
会場にはたくさんの紙袋が置いてありましたが、中に入っていたのは、全てベーグルでした。普段の研究会の軽食といえば、ピザやスナック、野菜、果物が定番ですが、この日はベーグルとコーヒーだけ。話を聞いてみると、これが伝統な「ベーグル・タイム」のスタイルなのだそうです(いかにもアメリカ人らしいですね)。
ちなみに、現地のコーヒーショップやパン屋にはベーグルカッターというものが置いてありました。それを使用すると、この硬いパンも水平にきれいに輪切りにでき、その間に様々な具材を挟んで楽しめるのです。店での一番人気はクリームチーズとスモークサーモンでした(私はあまり好みではありませんでしたが)。ある時、切ったベーグルを家でトーストしたところ、これが想像以上に美味しくて、それ以来、トーストしたベーグルのとりこになりました。
大学農場で出会った絶品アップルジュース
大学には農学部が管理する広大な農場があり、そこで採れたリンゴがたくさん販売されていました。特に、マッキントッシュという小ぶりの品種がおいしかったです(あのコンピュータの由来となった名前なので(綴りはちがうのですが)、印象に残っています)。
そして、この農場で忘れられないのが、巨大な樽に入ったアップルジュースです。これがまた、驚くほど美味しかったのです。隣の売店で購入したガロン瓶に、樽から直接アップルジュースを詰めるのですが(これも楽しい!)、いつも行列ができるほどの人気で、売り切れてしまうこともよくありました。
汲みたてのフレッシュなアップルジュースが格別でしたが、添加剤も入っていないので日が経つにつれて味が変化していくのも楽しみでした(徐々に酸化?)。冷蔵庫で保管すると1週間くらいは日持ちしましたが、2日目以降は徐々に味が深みを増していき、色も濃く変化。特に1週間後にはワインのような芳醇な味わいになるのです。
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日本に帰国してしばらくすると、あのベーグルの味が懐かしくなり、専門店を探して求めるようになりました(タイトル写真は、下記の専門店で購入したベーグルです)。最近は日本でも多くのパン屋でも見かけるようになり、嬉しい限りです。一方、あのアップルジュースの味には、まだ出会えていません。今も探し続けています。
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注1:BAGEL & BAGEL ホームページより
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