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歌詞とメロディー、どちらが主役か?: 言葉の持つ力を再考する(元教授、定年退職318日目)
音楽を聴くとき、私たちは何を求めているのか
小学生の時、少しショックを受けた出来事がありました。それは、音楽の授業中に先生が「音楽で重要なのは、歌詞でしょうか、それともメロディーでしょうか?」と質問されたのです。私は自信を持って手を上げて答えたのですが、先生からは反対の答えが返ってきました。当時の私は納得できず、反論もできませんでした。ただ「なぜ?」という疑問だけが鮮明に残ったのです(今となっては、私がどちらを答えたのか、先生がどのように説明したのか、記憶は曖昧です)。大人になった今なら、「楽曲や時代によって重要性は異なるから、結論は一概には出せない」と答えるでしょうが、当時そんなことを言う生意気な小学生はいませんね(笑)。この経験は、私にとって「音楽における歌詞とメロディーの関係」という難問を突きつけました。
NHK『名曲考察教室』で紐解く、奥田民生と中島みゆきの歌詞の世界
さて、今回はそんな「歌詞」の話です。先日、NHK の『名曲考察教室』という番組で興味深い企画が放送されました。漫才コンビ「令和ロマン」の高比良くるまさんと、元「NMB48」の渋谷凪咲さんが「考察ゲスト」として出演し、奥田民生さんの『さすらい』と中島みゆきさんの『悪女』の歌詞を読み解いていました。M-1 で史上初の連覇を果たした高比良さんと、大喜利でも才能を発揮する渋谷さん。言葉のプロである新世代の二人が名曲に隠されたメッセージをどのように解釈するのか、楽しみでした。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)
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奥田民生『さすらい』が描く、自由を求める若者の葛藤
奥田さんといえば、作務衣姿で手ぬぐいを巻き、飄々とアコースティックギタ一で歌う印象があります。評論家によると、彼の歌詞を「はぐらかしの美学」と評されていました。自然に浮かんでくる言葉を飾らずに紡ぐ、そんなスタイルが独特の魅力を生んでいるのだとまとめていました。
高比良さんは、お笑い界随一の理論家で、漫才を考察する書籍や YouTube も人気です。彼は「さすらおう、・・・」で始まる『さすらい』の歌詞を「さまよえる美大生の叫び」と位置づけました。そして、縛られずに自由に生きたくても、現実のしがらみから逃れられない若者の葛藤とその切ない心情を、見事に表現していると語りました。番組では、この解釈に基づいた、爽やかでどこか寂しげな映像が制作され、歌詞の世界観を深めていました。(下写真もどうぞ)
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中島みゆき『悪女』の真意とは?“強さ”を宿す女性像を読み解く
中島みゆきさんについては以前に note でも書きましたが、私は大学時代から大ファンで、デビューアルバムから 10 作目まではレコードがすり減るほど聴き込みました。「悪女」は、「マリコの部屋で・・・」で始まる、心が離れてしまった相手に悪女を演じて、自ら嫌われようとする女性の強がる心情を歌った一曲です。9作目のアルバム『寒水魚』に収録され、シングルカットされると、1970 年代の「わかれうた」に続き 1980 年代でオリコン1位を獲得しました。評論家によると「曲の中にいくつかしびれるフレーズがあり、短文で突き刺さってくる」と語っています(納得!)。
渋谷さんはこの歌をシンデレラに重ね、「芸能界」の物語として捉えました。そして、悪女とは単に悪いという意味ではなく、嫉妬や未練などの様々な挫折を乗り越えて強くなった女性の姿だと解釈したそうです。「悪女」という言葉の持つネガティブなイメージを覆すユニークな視点に感心しました。(下写真もどうぞ)
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井上陽水から始まる“深読み”の楽しみ
歌詞の深読みといえば、5年ほど前に NHK で放送された『深読み音楽会:井上陽水』も印象に残っています。70 年代、井上陽水さんをはじめとするシンガーソングライターたちは、それまでの歌謡曲を一変させ、リアルな感情や社会問題を歌詞に込めました。番組では、文学、美術、音楽などの専門家たちが、陽水さんのシュールで難解な歌詞を時代背景や主人公の心理分析を交えながら、大胆に読み解いていきました。例えば、「氷の世界」を死の世界への旅立ちの歌と深読みしていました。そのスリリングな展開に、私もとても驚きました。(下写真もどうぞ)
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近年、イントロなしでいきなり歌い出しから始まる曲が流行しているそうです。これは、メロディーよりも歌詞が重視される傾向の表れかもしれません。音楽における歌詞とメロディー、どちらが主役なのかは、時代や聴き手によって変わっていくのでしょう。しかし、言葉が持つ力や物語を紡ぎ出す力は、いつの時代も変わらないのです。これからも私は、音楽を聴きながら言葉の持つ力について考え続けていきたいと思います。
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注1:NHK『名曲考察教室:奥田民生と中島みゆき』より
注2:NHK『深読み音楽会:井上陽水』より