未来を変える3つの革新的金属加工技術: 未来モノづくり国際EXPOレポート2 (元教授、定年退職231日目)
前回の報告では、第2回 未来モノづくり国際 EXPO 2024 での自動運転モビリティや電動アシスト台車など、新しいロボット関連技術を紹介しました。今回は、特に注目を集めていた「素材」分野の最新技術を2回にわたってレポートします。まずは、未来のモノづくりを大きく変える可能性を秘めた、3つの革新的な「金属」加工技術に焦点を当ててご紹介します。
展示会場の金属関係のブースを巡っていると、最初に目を引いたのが「最強の黒」と「歯のない歯車」の展示でした。
反射率1%の黒いステンレス
最強の黒という言葉で思い出したのは、かつて学生たちと遠足で訪れた金沢の 21 世紀美術館の展示でした。コンクリート打ちっぱなしの空間の中に、漆黒の楕円が描かれた作品です。その黒をずっと見つめていると、その楕円が浮き上がるような沈んでいくような不思議な感覚に陥り、黒の怖さを知りました。そう言えば、世界で一番黒い塗料が話題になったこともありましたね。テレビで車に塗られた様子を見た時、その存在が消えるような衝撃を受けたことを覚えています。(下写真もどうぞ)
今回の「最強の黒」にも興味を引かれ、(株)エス・ジー・ケイ のブースに足を運んでみました(下写真)。そこには、真っ黒の板とやや灰色がかった黒の2枚の金属板が展示され、それぞれにライトが当てられていました。説明員の方によると、最強の黒のサンプル「IS-B」は灰色がかった方で、「何も塗らない黒い艶消しステンレス」だそうです。そう言われてみると、真っ黒の板の方は板そのものは黒く見えるものの、当てられた光で反射して眩しく輝いています。一方の IS-B の方は、全くと言っていいほど光を反射していません。
詳しい話を伺うと、特殊な表面処理とエッチング加工を組み合わせることで、可視光領域光の反射を1%程度にまで抑制しているとのこと。さらに、通常の艶消し処理では反射率が高くなってしまう近赤外領域まで低反射率を維持しています(下写真)。この技術により、ゴーストやフレアを軽減できることから、カメラなどの光学部品への利用が期待されています。
非接触で力を伝達する! 歯のない歯車の秘密
次に紹介するのは「歯のない歯車」です。「未来ものづくり AWARD」ファイナリストにも選ばれた (株)エフ・イー・シー による画期的な技術です。展示されている装置を見ると、下写真のように全く歯車のギザギザはありません。それでいて、確かに力が伝わっている様子は、非常に興味深いものでした。(タイトル写真、下写真:注3)
この技術のポイントは、一般的な歯車の「歯」に相当する山と谷を、N 極とS 極に置き換え、「磁力の引き合い力」を駆動力として利用している点にあります。これにより、歯車が接触することなく、非接触で動力を伝達することを可能にしているのです。最大のメリットは、非接触であるため、歯車同士の噛み合いによって発生する粉塵等の異物が発生しないこと、そして潤滑油やグリスの塗布も必要がないことです。この特徴から、クリーンで静かな環境が求められる、半導体、食品、医療品などの製造現場での活躍が期待されます。さらに、歯車間の距離でトルクも調整できるのも魅力で、距離を調整によって動力の ON/OFF も制御できます。
金属とプラスチックを一体化する夢の技術
最後に紹介するのは、金属とプラスチックを接合する技術です。高度な金型・射出成型技術をベースに、プラスチック製品の開発・製造を行う睦月電機(株) が開発した「ALTIM」という技術です。家庭でも、金属とプラスチックを接着する専用の接着剤が販売されていますが、より強固かつ確実にという意味では、通常は下写真の蝶番の例にあるように、ネジやリベット止めが一般的です。それを、「ALTIM」はよりシンプルで軽量(エア漏れ、水漏れなし)な接着を可能にします。
まず、金属表面をレーザーで処理し、凸凹パターンを形成します(具体的なパターンは、企業秘密でした)。次に金属とプラスチックを押しつけ、金属側から加熱してプラスチック表面を溶かします。溶け出したプラスチックは金属の凹部に入り込み、冷却して接合が完了します(下写真)。この方法を用いることで、高い防水性と気密性、さらには高い強度と耐久性を実現できます。また、再度加熱することで簡単に剥離することも可能です。
今回は、未来 EXPO で出会った革新的な金属加工技術の中から、特に印象に残った3つの技術をご紹介しました。これら以外にも興味深い展示が多数あり、例えば金属の3Dプリンターなど未来のものづくりを大きく変える可能性を秘めた技術が多数展示されており、金属加工技術の進化を肌で感じることができました。次回は、ポリマーの新展開に関する報告をお届けする予定です。ぜひお楽しみに!
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注1:金沢21世紀美術館、ホームページより
注2:(株)エス・ジー・ケイ、配付資料より
注3:(株)エフ・イー・シー、配付資料より
注4:睦月電機(株)、配付資料より