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進化する"橋"の秘密:「サイエンスZERO」で学ぶ橋梁技術の革新 (元教授、定年退職246日目)
先日、note に岡山から快速マリンライナーで瀬戸大橋を経由して高松を訪れた時の話を書きました。讃岐うどんについての記事でしたが、実は瀬戸大橋を鉄道で渡るのはその時が初めての経験でした。
私の瀬戸大橋の渡航自体は、今回で3度目となりました。最初に訪れたのは1997年、松山で卒業生の結婚式に参加した際、岡山でマツダロードスターの赤いオープンカーを借りて、奥様と二人でこの橋を渡りました(ついでに四国一周旅行も計画)。その壮大な橋の構造と圧巻の瀬戸内海の絶景に深く感銘を受けました。
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瀬戸大橋について
瀬戸大橋は、開通から 36 年を迎える本州四国連絡橋で、岡山県と香川県を結ぶ二重層の橋です。この橋は鉄道と道路を併用する構造で、全長 13.1 キロメートルと世界でも最大級の長さです。本州と四国を結ぶ唯一の鉄道ルートで約 20 分を要します。
この瀬戸大橋は、プレストレスト・コンクリート(PC)工法を採用した橋として知られています。今回、NHK E テレ「サイエンスZERO」では「未来をつなぐ!"橋梁技術" 最前線」を特集し、この PC 工法について詳しく解説されていました(タイトル写真:注1)。
コンクリートの弱点とPC工法の特徴
一般的にコンクリートは、押す力(圧縮力)には強いものの、引っ張る力(引張力)には弱く亀裂が生じやすいという特性があります。PC 工法は、このコンクリートの弱点を克服するために開発された技術で、長い距離を連結するための優れた解決策となっています(下図)。これにより、橋脚の間隔を広げ、長いスパンの橋が可能になったのです。
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番組では、PC 工法の原理を簡単な実験で示していました。積み木をコンクリートブロックに見立て、両面テープで接着しながら横に伸ばすと、その重みで途中で折れてしまいます。しかし、ブロックに紐を通し、その紐を横に引っ張ることで、紐の力がブロックに圧縮力を与え、折れなくなりました。これが PC 工法の基本原理です(下写真)。
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実際の橋では、橋桁の内部に太い高強度鋼材ケーブルが貫通しており(これが前述の紐に相当します)、コンクリートに圧縮力を与えることで強度を保っています。このケーブルは1本で 20 トンのトラックを吊り上げられるほどの強度があり、特別な器具でしっかりと固定されます。(下写真もどうぞ)
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コンクリートの強度実験
番組ではさらにコンクリートの強度実験も行われました。通常のコンクリートは 1.7 トンで破断するのに対し、PC 工法を用いたものは5トン以上の荷重にも耐えました。また、5トンの荷重時を受けた際のたわみを比較する実験では、鉄筋入りのコンクリートが 2.4 ミリのたわみを示したのに対し、PC は 1.4 ミリでした。このわずか1ミリの違いが、橋桁間の距離を 20〜30 メートルから 200 メートル以上まで広げることを可能にしました。(下写真もどうぞ)
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新しい工法や新素材の検討
近年、注目を集めているのが、エクストラドーズド橋と呼ばれる進化版の PC 橋で、最近の橋や道路でも多く使われるようになっています。この工法は、従来の PC 橋のようにコンクリート内部にケーブルを通すのではなく、塔を建てて PC ケーブルを外部に張り出し、橋桁を吊る構造になっています。これにより橋桁の強度が保たれ、従来の PC 橋より橋桁間を延長することが可能になりました。(下写真もどうぞ)
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その他にも、地震の揺れを想定した補強、橋の軽量化、PC 橋の維持管理システムなども着実に進展しています。材料面では、錆びないうえに鉄より強度を持つものとして、PC ケーブルにアラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維を用いる開発も進んでいます。現時点ではコスト面での課題がありますが、今後はより安全で耐久性の高い橋が求められます。(下写真もどうぞ)
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このように、土木の分野においても新しい素材や技術が次々と登場し、人々の安全な暮らしを支える重要なインフラが確立されてきました。従来とは異なる視点でのこのような革新に、土木分野の力強さを改めて感じます。
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注1:NHK Eテレ「サイエンスZERO:未来をつなぐ!"橋梁技術" 最前線」より