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元教授、アイスクリームと化学工学について考える: 定年退職158日目

皆さん、「化学工学」という学問分野をご存じでしょうか。名前を逆さにしたような「工業化学」という名称は耳にしたことがあるかもしれません。実は私の母校には両方の学科が設置されていて(当時)、ある友人は高校時代に違いがわからないまま入学願書を出したと話していました。

確かに、どちらも化学の分野であることに違いはありませんが、実際には全く別の内容を学ぶ学科なのです。化学工学は「物理」または「工学」に近い一方、工業化学は純粋な「化学」の分野です。その友人は「物理が得意ではなかったので化学工学科を選んだのに、中では物理ばかり勉強させられた」と嘆いていました。しかし実際、大学を卒業して化学関連の企業に就職すると、化学工学は必須の知識となる重要な学問です。

化学工学は、例えば「流体の流れ」で説明しますと、さらさら流れる穏やかな小川とごうごうと流れる激流の違い、水路が曲がる時の力の作用、撹拌による混合の仕組みなどを学びます。この知識は、パイプラインや攪拌機などを使用する化学企業では欠かせません。それだけでなく、化学工学は化学に関する単位操作全般に関わり、その範囲は物質やエネルギーの収支、熱伝導、蒸発、乾燥、ろ過、粉砕など広いのです。そして、それらの制御や化学プラントの設計図を描くのに必ず必要になります(専門的にいうと、物質やエネルギーの質的ならびに量的変化を扱う学問です)。

学生時代勉強した化学工学の教科書、懐かしい!


なぜこんな硬い話から始めたかというと、先日私のお気に入りの日曜朝の番組「がっちりマンデー!!」で「売れまくっている地元のアイス」が特集され、まさに「化学工学(食品工学)」が詰まった内容だったからです。紹介された、スライスレモンが入った「サクレ」や老舗のお茶屋さんの「超濃い抹茶アイス 7番」などはいずれも魅力的でしたが、私が関心を引かれたのは (株)シャトレーゼのチョコレートアイス「チョコバッキー」でした。

「チョコバッキー」はバニラアイスの中に、薄いチョコが何層にも折り重なったアイスバーで、どこから食べてもバニラアイスとチョコの両方が楽しめるとのことです。そこで私は、近所に最近オープンしたシャトレーゼに行き、早速購入してみました。60円というお手頃な価格ながら、パリッとしたチョコの層が滑らかなバニラアイスの中に何層にも入り込んでおり、チョコとバニラアイスの両方の味と口溶けを同時に楽しめました。しかも、どの方向から食べてもチョコの薄い層が現れました。

購入した「チョコバッキー」、美味しそう!
薄いチョコが何層にも折り重なっている(注1)


一体どうやってあの複雑な構造を作っているのでしょうか? 最初からバニラアイスとチョコを液状で混ぜると普通のミルクチョコのアイスになりますし、冷えたアイスにとけたチョコを混ぜようとするとチョコが固まってしまい全体に広がりません(下写真)。番組内でシャトレーゼの担当者に聞いていましたが、企業秘密で詳しくは答えてくれません。ただ、太さの違うバニラ用とチョコ用のノズルが複数あり、同時に型枠に注ぎ込んでいるというヒントは得られました。この技術により、年間1億1千本も売れるという、あの美しい模様のアイスが生まれているのです。

一体どうやってあの複雑な構造を作っているのか? (注1)
「チョコバッキー」全自動工場の様子(注1)


「チョコバッキー」になぜ興味を持ったかというと、私の専門である高分子の分野でも2種類の高分子をどう混ぜるかが永遠の課題です。通常、2種類の高分子は混ざり合うことはほとんどなく、2つの領域に分離してしまいます(マクロ相分離)。そこで、2種類の原料(AとB)を混ぜて合成(重合)すると、ランダムに結合した高分子が出来ます(・・・ABABAABABB・・・)。しかしそれは、足して2で割った中間の性質しか示しません。一方、それらの原料を特殊な方法でブロック的につなぐと(・・・AAAAABBBBB・・・)、中間の性質ではなく2種類それぞれの性質が出現します。この場合、高分子は2つの領域にマクロに分離するのではなく、それぞれがミクロの領域で小さく集まります(ミクロ相分離といいます)。これがまさに今回の「チョコバッキー」に通じるもので、研究のヒントになるかも知れません。興味深いですね。

それでは、またお会いしましょう。

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注1:TBS テレビ「がっちりマンデー!!」より




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