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進化したカブトムシが拓く新たな循環型社会へのヒント (元教授、定年退職239日目)

三十数年前、新婚当時に勤めていた緑豊かな大学で、大きなノコギリクワガタを見つけ、家に持ち帰りました。虫好きの奥様は大喜びし、名前をつけて大きな飼育ケースで毎日欠かさず世話をしていました。最初は野菜を与えていましたが、やがて専用の餌も購入するようになりました。ある日、近くのスーパーで買ったメロンの切れ端を与えると、彼は夢中になって食べ、夜中にはメロンに顔を埋めていたそうです。それ以来、贅沢になった彼は専用の餌には見向きもしなくなってしまったのです(涙)。


さて、本題のカブトムシについてです。TBS の日曜朝番組「がっちりマンデー!!」で、「環境救う㊙︎カブトムシ!餌は廃棄物!?」という特集が放映されていました。そこで登場したのは (株)トムシという会社。最初の「株」から続けて読むと「カブトムシ」になるというユニークな社名です。番組では、まず1匹 40 万円で取引されているという「ヘラクレスオオカブト」が紹介され驚きましたが、今回の本質的な内容は別にありました。(タイトル写真、下写真:注1)

ヘラクレスオオカブト(注1)

トムシ社では、カブトムシの販売だけでなく、進化したカブトムシが廃棄物問題の解決に一役買っているというのです。以下に、そのポイントを3つに分けて紹介します。


1. カブトムシが有機廃棄物のリサイクルに役立つ

カブトムシは土を主食としており、木材由来の廃棄おがくずなどの有機廃棄物を混ぜたものを与えていました。トムシ社では、契約しているキノコ会社のブナシメジ栽培後の廃菌床をカブトムシの幼虫の餌として活用しています。これまでブナシメジを収穫した後の廃菌床は、栄養分がなくなり廃棄されてきました(下写真)。この会社でもその量はなんと1日4トンにも及び、処理費用も大きな負担となっていました。

ブナシメジと、収穫した後の廃菌床(注1)


驚くべきことに、カブトムシの糞でその廃菌床は栄養のある土壌に戻り、再びキノコ栽培に利用できることがわかりました。これにより、ブナシメジの原料コストの削減にもつながる、実によくできた循環システムが確立されました(下写真)。

実によくできた循環システムが確立(注1)


2. カブトムシの品種改良によるリサイクルの進展

この循環システムを進める上で重要だったのが、カブトムシの品種改良です。

・廃菌床を好んで食べるカブトムシを育てる。ブナシメジ栽培後の廃菌床には独特な菌が含まれていますが、トムシ社では、その廃菌床を好んで食べるカブトムシを品種改良によって生み出すことに成功しました(下写真)。

カブトムシの品種改良(その1):注1

・早く育つカブトムシに改良する。このプロジェクトは、成長の早いカブトムシを発見したところから始まりました。東北で見つけたそのカブトムシを親として品種改良を行い、通常の3倍早い4ヶ月で成虫になるカブトムシが誕生したのです(下写真)。これにより、循環システムのサイクルが早まりました。

カブトムシの品種改良(その2):注1


3. 新たなビジネスへの展開

・同社はキノコの廃菌床処理にとどまらず、給食センター、レストラン、スーパーマーケットからの生ゴミ処理にもカブトムシを活用するという事業展開も進めています。

・育ったカブトムシは、これまで夏のイベントで展示や販売に利用されてきましたが、その需要には限りがあります。そこで、カブトムシが増え過ぎた場合は、幼虫の段階で粉末化し、家畜飼料や養魚用餌料として活用することも検討されています。


この取り組みは、品種改良という技術革新を駆使して実現した、画期的な循環型リサイクルシステムです。このような創造的な取り組みが、今後ますます広がっていくことを期待しています。


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注1:TBS テレビ「がっちりマンデー!!」より


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