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化学の力で変わる道路メンテナンス最前線: 水で固まる新世代アスファルト (元教授、定年退職236日目)
現役時代は毎日車で大学に通っていました。車での通勤は私のささやかな楽しみであり、日々のモチベーションを高めてくれるものでもありました。我々の若い頃は、友人たちと車やバイクにどれだけ投資したかを競い合うような時代でした。給料に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」という言葉がありますが、私たちの世代は「車係数」の方が高かったかもしれません(笑)。車にまつわる話は長くなりそうなので、それはまた別の機会に。
さて、車を運転していて気になるのは、やはり道路の状況です。同じ道路でも、場所によって舗装状態が大きく異なることがあります。近年は、排水性の良い道路が増えたおかげで、雨天時の高速道路でも以前より安心して走行できるようになりました。(何が変わったのかよくわかっていませんが)タイヤの路面グリップも向上したように感じます。特に太めのタイヤを好む私は、路面状況の変化に敏感なのです。
高速道路はこのように進化していますが、一般道路にはまだ改善の余地があります。現在は、私は毎日のようにバスを利用して駅まで向かうのですが、特定の場所でバスがガタンと揺れるのが気になっています。とはいえ、以前と比べれば道路状況は格段に良くなり、損傷箇所も減ったように思われます。道路の修繕頻度が減り、工事期間も短縮されていると感じています。
そんな折、TBS の日曜朝番組「がっちりマンデー!!」で「地面ビジネス:水だけで道路を直す魔法の砂!」という特集が組まれていました。その中で興味深かったのが、前田道路(株)の新製品『マイルドパッチ』です(タイトル写真:注1、下写真)。なんと、常温で水をかけるだけで固まるという、画期的なアスファルトなのです。
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アスファルトは、原油からガソリンや軽油、ガスなどを抜き取った後に残る、真っ黒な塊です。常温では固体ですが、温めるとドロドロの液体状になります。これを高温で熱した砂や石と混ぜ合わせたものが「アスファルト合材」です。工場で製造されたアスファルト合材は、冷めないうちに道路工事現場まで運搬され、敷き詰められます。その後、ローラーで平らにならし、時間をかけて冷ますことで、ようやく道路舗装が完成します。アスファルトは接着剤のような役割を果たし、砂や石をしっかりと結びつけるのです。ただし、完全に乾燥するまでには半日ほどかかるようです。(下写真もどうぞ)
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今回紹介するマイルドパッチは水をかけるだけで、わずか1時間ほどで強固に固まります。10 キロ1袋で 2000 円と、一般的なアスファルトより高価ですが、 Amazon などでも手軽に購入できます。番組では、実際にマイルドパッチを使って道路の穴を補修する様子が紹介されていました。袋を開けると、常温のアスファルト合材が入っており、それを穴に入れて水をかけます。この時点ではまだ柔らかい状態ですが、最後に足で踏み固め約1時間たつと、ハンマーで強く叩いても壊れないほど硬くなるのです。道路の小さな損傷であれば、これで十分に補修できるでしょう。(下写真もどうぞ)
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その仕組みは、番組内でも詳細には説明されませんでした(ホームページにも記載はありませんでした)。ただ、ヒントとして黄色っぽい特殊な油が使用されていると紹介されていました。推測ですが、この油が何らかのモノマーであり、水を加えることで重合反応を開始させている可能性があります。水の添加で重合が始まる系は数多くあり、例えば、以前noteでも紹介した瞬間接着剤も、空気中の水分を用いて瞬時に重合する仕組みです。今回のマイルドパッチは硬化に1時間かかることから、異なる重合系と思われますが、下図に示すように砂や石の隙間に入った液体の油が、水で反応して固まっているようです。(下写真もどうぞ)
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<追記> 袋に記載されていましたが、マイルドパッチは使用後は密封して保管する必要があるそうです。開けたまま放置すると、空気中の水分と徐々に反応して固まってしまうとのことです。
このような新技術は、近年増加している集中豪雨による道路損傷の緊急補修にも役立つ可能性を秘めています。化学技術の進歩が、社会インフラの維持管理に貢献する姿を目の当たりにするのは、化学を研究してきた者にとって嬉しいことです。
<追記> 高度経済成長真っ只中に育った奥様は、「化学」というと「公害」のイメージが強かったそうです。私からいろんな話を聞いて「化学のイメージが変わった」と言っていました。
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注1:TBS テレビ「がっちりマンデー!!」より
注2:前田道路「マイルドパッチ」ホームページよりhttps://ssl.maedaroad.co.jp/search/マイルドパッチ/