元教授、「複合材料・カーボン」に関する技術展で見つけた新素材の複合化: 定年退職168日目
今回の報告は、先日までの海外滞在記や音楽系の話題から一転し、新しい素材開発に関するものです。9月13日、久しぶりに大阪産業創造館を訪れ、「複合材料・カーボンフェア」という技術展に参加しました。そこで目にした、印象的な二つの技術についてご紹介します。
9月中旬とはいえ、真夏のような暑さでした。会場の前まで着くと、はす向かいの木陰に、大正時代から続く「ゼー六」というアイスモナカとコーヒーの名店が目に入りました。「パリパリ」の皮のアイスモナカの誘惑に負けそうでしたが、今回は技術展に集中することにしました。次回はぜひ、立ち寄りたいと思います。
振動抑制された炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
皆さんは炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をご存じでしょうか。CFRP は金属並みの硬度がありながらも軽量であることから、航空機や船舶などの超がつく高強度・高剛性が求められる分野から、スキー、スノーボード、テニスラケット、自転車といった身近な製品まで幅広く使用されています。CFRP は炭素繊維で樹脂(プラスチック)を強化した複合材料で、一部の分野ではカーボン樹脂やカーボンとも呼ばれています。
最初に訪れたのは、クラレプラスチックス(株)のブースでした。ここでは CFRP の振動抑制実験を見学しました。3本の棒を弾いて振動の様子を比較する実験で、1本目は CFRP そのもの、2本目は汎用のフィルムを挟んだもの、3本目は新開発のフィルムを挟んだものでした。1本目と2本目は弾くと振動が残るのに対し、3本目はほとんど振動が残りませんでした。この開発したフィルムにはアーネストンⓇ というポリマーが使用されており、加硫ゴムのような工程が不要で簡単に成形でき、有害物質を含まないため環境に優しくリサイクルも可能とのことです(専門的には、スチレン系ブロックコポリマーという熱可塑性エラストマーです)。
配付資料によると、通常のポリマーは左の図のように高反発で弾むのに対し、アーネストンⓇ は右で、低反発で衝撃を吸収する特性があります。この特性を利用することで、振動の減衰効果を生み出しています。その結果、ロボットアーム、精密部品、自動車部材などに CFRP を使用した際、制振性により作動性や静粛性(雑音の抑制)が向上します。さらにその形態も、フィルムだけでなく、不織布、メッシュ、発泡シートなど多様に加工できるため、製品の適用範囲は非常に広いと感じました。今後の展開が楽しみです。
機能性や環境保護を考えた新しいインキ・コーティング剤
次に訪れたのは、OPI(株)(旧大阪印刷インキ製造(株))のブースでした。この会社は印刷インキやコーティング剤を扱っており、ビーズミルやロールミルなどの混練機や特殊な撹拌機を用いて様々な素材を分散させています。従来は分散が困難だった素材も、新しいコーティング剤に配合されます。
たとえば、紙や不織布に対して、耐水耐油性、防湿(撥水)性(パラフィン系:非シリコン、フッ素系)、防かび、消臭などのコーティングを施し、素材の表面特性を変えていきます。機能性を有するコーティング剤としては、導電性カーボンを用いた帯電防止性や光遮断性、カーボンナノチューブ(CNT) を用いた印加電圧による発熱、難燃性(非ハロゲン系)などが開発されています。これらはいずれも、印刷機などを用いて様々な材料表面に塗布も可能で、容易に機能が付与できます。
また、環境保護の観点から、植物由来の原料(パルプ、コットン、松脂、米ぬか)や牡蠣殻を分散させた新しいコーティング剤も展開していました。特に、牡蠣殻は年間10万トン以上が廃棄されているので、これをアップサイクルしたインキを開発しています。下写真は、使用した牡蠣殻の超微粉砕物と、そのインキを塗布したサンプルです。
他にも、高濃度・高粘度の CNT や様々な機能を有する無機フィラーの分散((株)トクシキ)、樹脂の相分離構造の制御により少量の CNT で導電性を付与する技術(大阪産業技術研究所)など、興味深い展示が多数ありました。
今後も、このような新技術の動向に注目していきたいと思います。
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