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救急車の「ピーポー音」誕生秘話: サイレン工場を訪ねて @探検ファクトリー (元教授、定年退職233日目)

私の住まいの前には消防署があり、日頃からとても心強く感じています。消防署には様々な消防車が配備され、小さな子供たちが母親に連れられてよく見学に来ています。署員の方々は頻繁に訓練を行っており、特にハシゴ車の訓練時には何組もの親子が見上げては歓声を上げています。私も定年退職後は昼間に家にいることがあり、時折、一緒に眺めています(笑)。

私が救急車に乗ったのは、一度だけ、付き添いでの経験です。車内には様々な医療機器が整然と配置されており、とても興味深かったことを覚えています。特に印象的だったのは、サイレンを鳴らしながら走行すると、周囲の車両が協力して道を譲ってくれることでした。ただし、その時は後方から猛スピードでついてくるマナーの悪い車両があり、署員の方がマイクで「後ろからついてこないで!」と怒っていました。追走したくなる気持ちはわからなくもありませんが・・・(笑)。


さて、今回は「サイレン工場」についてお話しします。「探検ファクトリー:元気な工場の秘密を探る」というNHK 大阪制作の番組で、「『ピーポー音』を最初に作ったサイレン工場」が紹介されました。漫才コンビ・中川家とすっちーが案内役を務めるこの番組は、以前の note でも何度か取り上げたことがあります。今回は、京田辺市のサイレン製造企業を訪問していました。(タイトル写真、下写真(注1))

中川家 礼二さんのお決まりのギャグからスタート(注1)


番組ではサイレンの製造工程について丁寧に説明されていましたが、特に印象的だったのは救急車の「ピーポー音」に関する歴史でした。この音色は、なんとこの会社が五十数年前に初めて開発したものだったのです。それまでは、消防車、救急車、パトカーのすべての緊急車両が、手回し式の「ウーウー」という同じ音を使用していました。そのため、サイレンが鳴っても、実際に車両を目視するまでどの種類の緊急車両なのかが判別できませんでした。特に地域の消防団員にとって、これは大きな課題でした。火事であればすぐに駆けつけなければなりませんが、確認のために現場到着が遅れてしまうことがあったためです。(下写真もどうぞ)

以前は、消防車、救急車、パトカーが同じ音を使用(注1)
手回し式の「ウーウー」サイレン(注1)

この問題を解決するため、先代社長は新たなサイレン音を求めて海外視察に赴き、ようやくフランスで聞いたパトカーのサイレン音に出会ったそうです。その後、神戸での試験運用を経て、全国を統括する消防庁により救急車用サイレンとして正式に採用されました。消防団員から高い評価を得ただけでなく、一般市民からも好評を博しました。専門家によれば、「ピーポー」という音は「シとソ」の「長3度」という音程で構成されており、明るい印象を与える組み合わせなのだそうです。また、この音色は患者の搬送時の不快感・ストレスを軽減する効果もあるとのことです。ちなみに、科学を教えていた私としては、この音が近づいてくる時と遠ざかる時とで音程が変わる「ドップラー効果」の絶好の教材として活用していました。(下写真もどうぞ)

フランスで聞いたパトカーのサイレンを参考に(注1)
当時の新聞から(注1)
「ピーポー」という音は「シとソ」の「長3度」という明るい音程で構成(注1)


近年では、さらなる改良が重ねられています。入院患者からの要望を受け、フェードイン・フェードアウト機能を追加してストレスを軽減したり、住宅地近くでは(音量は法律で変えられませんが)音程を変えて柔らかい音質になるよう工夫されたりしています。これにより、緊急性を保ちながらも周辺住民への配慮を実現しています。

また、視覚的な警告システムも日々進化を続けています。さらに、製品の信頼性を確保するため、振動・温度変化・防水性能など、厳格な試験を実施した上で出荷されています(下写真)。

振動・温度変化・防水性能など厳格な試験を実施(注1)


近年、救急車に対する一般車両のマナーは著しく向上していると感じます。緊急車両が接近した際の適切な退避行動が定着してきており、それは素晴らしい変化です。そして最近では、協力した車に対し、救急車から「ご協力ありがとうございました」と感謝の言葉を伝えてくれることもあります。そのような場面に遭遇するたびに、私は少し嬉しく、誇らしい気持ちになります。


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注1:NHK 大阪制作「探検ファクトリー:元気な工場の秘密を探る(『ピーポー音』を最初に作ったサイレン工場)」より



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