
倒れない本棚の開発秘話: ピアノ鍵盤から着想を得た新発想 (元教授、定年退職255日目)
大阪府北部地震から6年
先日、整理していた昔の写真の中に、2018 年の大阪府北部地震時のものが見つかりました。地震は朝8時前に発生し、規模は M 6.1 で最大震度6弱。大阪北部が震源地の地震は 400 年ぶりとのことでした。いつもより早めに出勤していた私は、強い縦揺れとその後の横揺れに翻弄され、目の前のモニターが倒れるのを防ぐのがやっとでした。実験室に行くと色々な物が倒れていましたが、学生はおらず怪我人もいなかったため、安堵しました。その後、建物の全階を見て回りましたが、幸い火災等はありませんでした(ただし、大阪府全体では死者6名、負傷者約 400 名と大きな被害が出ました)。
2004 年の国立大学法人化以降、大学では安全衛生管理が厳しくなり、地震対策も強化されました。棚のつっかえ棒、耐震型のボンベ立てや薬品庫などが導入された結果、今回は当研究室でも多くの棚やボンベなどの倒壊が防がれ、大きな被害はほぼありませんでした(それでも大学全体での損害は、数億円だったとのこと)。
当時の私の部屋や実験室の写真を下に添付します。私の机上に積み上がっていた書類は、ほとんど床に散乱しています(日頃の整理整頓不足ですね、涙)。学生部屋では、机上のいくつかの本棚が倒れ、一番奥に見えるモニターも転倒していました。しかし不思議なことに、一番手前の机の端から数センチの所にあった縦型のガラスサンプル瓶は倒れていませんでした。この「奇跡の」サンプル瓶の中の細い NMR 用チューブは「すごい研究結果が入っていたから倒れなかったのでは」と学生たちの間で話題になりました(実際の結果は普通だったそうです、笑)。



日常を変える、ストレスフリーな本棚のアイデア
今回のテーマは倒れない本棚です。TBS の日曜朝番組「がっちりマンデー!!」で「地味だけどスゴいチェンジ!」という特集が放映されていました(下写真)。そこで取り上げられたのは文房具会社・(株)リヒトラブ(私は、ファイルやノート類でよく使用しています)の「本が倒れないブックスタンド」でした(タイトル写真:注2)。とてもアイデアが面白く、楽しいものでしたので、ここでご紹介することにしました。


通常、本棚から数冊取り出すと、隣の本が倒れてきます。倒れた本を立たせようとしても、今度は逆側が倒れてイライラします。さらに一度にたくさんの本を入れようとすると、なだれ式に倒れたりします。一方、この本棚は一度に何冊抜いても倒れませんし、何冊入れてもなだれは起きません。それどころか、驚くべきことに、空の状態で真ん中に1冊だけでも安定して立ちます。ノンストレスで出し入れができるようです。(下写真もどうぞ)



ピアノがヒントに: 倒れない本棚の驚異のメカニズム
仕組みは、横から見ると簡単です。奥のところに三角の突起が付いていて、それがズラッと並んでいます。本を抜くとそこの突起が下がるため、隣の本を支えるのです。つまり、この突起がストッパーの役割になります。逆に本を手前側から差し込むとストッパーが上がり、両サイドのストッパーが差し込んだ本を保持します。ピアノの鍵盤のようだと思っていたら、開発者がピアノを習っていて、ピアノの鍵盤を押した時の形をヒントにこの仕組みを考えたそうで、「なるほど」と感心しました。(下写真もどうぞ)





完成までには、多くの試行錯誤があったそうです。まず本がスムーズに立つよう、ストッパーの角度が 140 度に設定されています。角度がほんの数度変わるだけで、問題になるのだそうです。また、どんな本でも対応できるよう、高さや幅もミリ単位で調整が繰り返されました。

収納の未来を開く可能性
出演者たちはいろいろと試していましたが、「本を入れるだけでストッパーが垂直になる」と、その計算された仕組みに感心していました。私は実物には触れていませんが、同じように嬉しくなりました。リヒトラブのホームページによれば、この製品が「第 32 回日本文具大賞 2023 機能部門優秀賞」を受賞していました。
私は、すべての本棚をこれに変えようとは思いませんが、机上で頻繁に使う場所には一つは欲しいと思いました。一方、このシステムは本棚に限らず、他の収納方法にも応用可能かもしれません。こういった革新の話題はワクワクしますね。では、また。
――――
注1:TBS番組「がっちりマンデー!!」の、特集「地味だけどスゴいチェンジ!」より
注2:(株) リヒトラブのホームページより