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知られざるタコの世界: 最新研究が明かすタコの高い知性と明石ダコ漁の危機 (元教授、定年退職268日目)

私にとってタコは、食材として非常に身近な存在です。自慢するほどではありませんが、タコ焼き作りには自信があります(下写真)。約 45 年前、学生時代の学園祭でクラブやクラスの出し物として何度もタコ焼きを作り続け、その腕を磨きました(笑)。関西では「たこ焼きパーティー(タコパ)」が日常的なイベントとして根付いており、私も友人の下宿で何度も参加しました。最初は定番のタコを具材に使用しますが、パーティーが進むにつれて様々な具材を試し始め、最後にはロシアンルーレットさながらのスリリングな楽しみ方をしていたことを思い出します。

タコ焼き(注1)


外国人客のおもてなしにも、タコ焼きは活躍しました。当初はタコを食べる習慣のない人が多く反応が心配でした。しかし、道頓堀などで購入したタコ焼きを道端で食べてもらうと、予想以上の良い反響がありました。それ以来、積極的に「Taco-Ballは如何ですか?」と勧めるようになりました。後でタコが具材であること(Octopus Ball)を明かすと驚かれることもありましたが、トロッとした生地とコリコリしたタコの食感、そして熱々の状態を火傷しないように食べる工夫を、異文化体験として楽しんでくれました。


しかし近年、タコの価格は倍近くまで急騰し、入手が困難になりつつあります。一部の店舗ではタコの代替としてチキンやイカを使用し、さらには和牛を具材にする可能性もあります。価格高騰の背景には、世界的なタコ需要の増加に加え、パレスチナ情勢の悪化に伴う輸送コストの増加があります。日本で消費されるタコの多くが、モーリタニアやモロッコからの輸入に依存しているため、この影響は避けられません。ちなみに、モーリタニアではタコ漁が重要な産業として確立しているものの、現地ではタコを食べる習慣は根付いていないそうです(彼らがその美味しさに目覚めてしまったら、輸出量が減ってしまうかもしれませんw)。(下写真もどうぞ)

タコの価格は倍近くまで急騰(注2)
タコの代わりにイカを使用したタコ焼き屋さんの表示(注2)


タコを巡る二つの注目すべき話題

最近、NHK の「サイエンス ZERO」と「所さん!事件ですよ」という二つの番組で、タコに関する興味深い特集が放送されました。そこでは、二つの注目すべき話題が取り上げられました。


1. 最新研究が示す驚くべきタコの高い知性

タコの知性に関する最新の研究が紹介されました。タコは道具を使用する能力や高度な学習能力を有し、例えば瓶の蓋を開ける方法を学習し、その記憶を保持することが確認されています(タイトル写真はココナッツの殻を使った賢い狩り:注1)。また、大きなレンズを備えた目は効率的な集光を可能にし、脳内には発達した視覚情報処理領域が存在します。さらに、他のタコの行動を観察して模倣する能力も確認されています。(下写真もどうぞ)

瓶の蓋を開ける方法を学習(12秒で開ける)(注1)
観察学習の例(紫のタコが赤のタコの様子を学習)(注1)


タコは触覚と視覚を組み合わせた(クロスモーダルな)認識能力を持ち、最新の研究では感情を持ち複雑なコミュニケーション能力も有していることが明らかになってきました。特筆すべきは、体色や形状を変化させて周囲とコミュニケーションを取る能力であり、これはタコの高度な知性を示す証拠の一つとされています。一説には、元々背負っていた貝殻を捨てた代わりに知性を発達させ(下図はタコの祖先)、海中で生き残る戦略を獲得した可能性が示唆されています。

貝殻を背負っていたタコの祖先(注1)


チンパンジーに匹敵する知能を持つとされるタコは、近年ペットとしての需要も増加しています。彼らは強い好奇心から、周囲の環境を観察・学習する能力を持ち、飼い主を認識して反応することができるそうです。

こうした研究の進展を受け、イギリス政府はタコを感覚(感性)を持つ動物として動物福祉法に追加し(下写真)、アメリカでも商業的なタコの養殖を制限する法案の検討が進んでいるそうです。倫理的な問題も含め、今後の動向が注目されます(ややこしくならないと良いですね)。

イギリス政府は動物福祉法に追加(注2)


2. 明石ダコ漁の危機と養殖への挑戦

タコ漁で有名な明石では、タコの漁獲量が 10 年前の 1200 トンから 200 トンに減少しています(下図)。この減少の主な要因として、海域の栄養不足とタコ釣りブームの影響が指摘されており、特に後者については兵庫県や漁協が厳しい規制を導入しています。

タコの漁獲量が10年前の1200トンから200トンに減少(注2)


この状況を打開するため、タコの養殖技術の開発が進められています。しかし、タコの養殖にはいくつかの課題があります。タコの幼生(赤ちゃん)は遊泳力が弱く、餌を捕獲しても摂食が困難という問題があります。また、共食いの傾向も大きな課題です。近年では、水流を制御して幼生の浮遊を助ける技術が開発され、共食い防止に向けた研究も進められています。(下写真もどうぞ)

タコの卵(注2)
タコの幼生(赤ちゃん)(注2)
タコの幼生は遊泳力が弱く、餌を捕獲しても摂食が困難だった(注2)


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このように、タコを取り巻く伝統的な漁業は、新技術の導入などにより大きな転換期を迎えています。番組内で MC の所ジョージさんは「魚のすり身などで様々な代替品の開発が進んでいるのだから、『ほぼタコ』としてタコの食感や味も再現できるのではないか」と期待を寄せていました。私も実際に『ほぼカニ(カネテツデリカフーズ、下写真)』などを試し、その完成度の高さに驚きましたので、タコの代替品開発は十分に可能だと考えますし、この挑戦がきっかけで全く新しい食感の食材が生まれる可能性もあります。私たちの食文化の未来について、今こそ真剣に考える時期なのかもしれません。

「ほぼカニ」など:カネテツデリカフーズのホームページより


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注1:NHK番組「サイエンスZERO:おいしいだけじゃない!神秘の知的生命体タコ」より
注2:NHK番組「所さん!事件ですよ:"令和のタコ騒動"たこ焼きからタコが消える!」より

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