物理学を極めた水中の狙撃手「テッポウウオ」の驚異の狩猟術 (元教授、定年退職270日目)
幼少期のお風呂遊びから始まる物語
幼い頃、父親に一緒にお風呂で遊んでもらった記憶があります。特に鮮明に残っているのは「ブクブクタオル」(もしくは「タオルクラゲ」)と呼ばれる遊びです。湯面に広げたタオルの下に空気を入れて膨らませると、まるでクラゲのように膨らむのです。それを握るとブクブクと泡を吹き出すのが楽しくて、何度も「やって!」とせがんだことを覚えています。
もうひとつお風呂で覚えているのが水鉄砲ごっこで、組んだ手の隙間からお湯を飛ばすのが大好きでした。両手をしっかりと組み、親指と親指の間にできる小さな隙間から水を勢いよく放出するのですが、この単純な遊びが、後に私がテッポウウオに魅了される伏線だったのかもしれません。ちなみに、手の組み方に地域差があることを、大学時代の銭湯での会話で知りました。
テッポウウオ:自然が生んだ精密射撃の名手
さて今回は、前回予告しましたように「テッポウウオ」についてお話しします。NHK の番組「ワイルドライフ 命の輝き」で「パラオ諸島 驚異の狩人 テッポウウオ」の特集を視聴しました。テッポウウオは、太平洋の赤道付近に位置するパラオ共和国のサンゴ礁、特に根が複雑に張り巡らされているマングローブの森に生息しています(下写真)。体長は約 15 センチで、日本国内では沖縄県の西表島にしか生息しないと言われています。この小さな魚が、驚くべき狩猟技術を持っているのです(タイトル写真:注1)。
テッポウウオは、水辺の草木にとまっている昆虫を、口から発射する水で正確に撃ち落として捕食します(下写真)。この行動が「テッポウウオ」という名前の由来です。その驚異的な狩猟能力は、以下の三つのポイントから成り立っています:
1.水の抵抗を受けない発射
獲物を見つけると、泳ぎを止め狙いを定めます。射程距離は最大で1メートル。エラから取り込んだ水を喉に溜め、強い水圧で発射します。このとき、口先を水面からわずかに出すことで、水の抵抗を最小限に抑え、射撃の精度を高めているのです。口の中の上あごには細い溝があり、この溝を通して水が一直線に押し出されます。(下写真もどうぞ)
2. 水面の屈折を見抜く能力
テッポウウオは水面での光の屈折を計算し、獲物の正確な位置を把握します。通常、水面を隔てると光は屈折するため、水中からは物体は実際よりも浅い位置にあるように見えます。しかし、テッポウウオは獲物のほぼ真下に入り込むことで、光の屈折の影響を最小限に抑え、正確に狙いを定めることができるのです。この物理現象を本能的に理解し、テッポウウオは最適な射撃位置を選んでいます。
3. 連射とジャンプ!2つの攻撃手段
テッポウウオは、最初の狙撃が外れても、最大で7発まで連射することができます。さらに、最終手段として水面からジャンプして直接獲物を捕らえることもあります(下写真)。ただし、ジャンプは体力を消耗するため、頻繁に使うことはできません。テッポウウオは、これら2つの攻撃手段を巧みに使い分け、獲物を仕留めているのです。
若きテッポウウオたち
番組では、子供の小さなテッポウウオも映し出されました。水の勢いが弱いためなかなか打ち落とせませんし、せっかくカマキリを水面に打ち落としたのに、怖くて食べることができず、逃がしてしまいました(下写真)。これから少しずつ経験を積んで、狩りの技術を向上させて欲しいですね。
このように、テッポウウオの持つ驚異的な能力は、私たちに自然の神秘と進化の素晴らしさを改めて考えさせてくれました。
次回予告:「ニフレル」での実物との出会い
このようなテッポウウオについて調べていたところ、偶然にも、地元のエキスポシティにある水族館「ニフレル」で、繁殖に成功して展示が行われていることを知りました。早速昨夕訪問し、実際にこの驚異のハンターを観察してきました! その様子は、次回の報告でお伝えします。どうぞお楽しみに。
−−−−
注1:NHK 「ワイルドライフ 命の輝き」で「パラオ諸島 驚異の狩人 テッポウウオ」より