世界の紙幣デザインと偽造防止技術： グローバル化時代におけるユーロ紙幣と日本の紙幣の進化 （元教授、定年退職274日目）
約半年前の5月3日（定年退職 33 日目）に note で、以前のドイツの訪問記を執筆しました。その中で、フランクフルト散策中に偶然見つけた「ユーロモニュメント」と欧州中央銀行(ECB)本部について紹介しました（下写真）。当時、「機会があればユーロ紙幣について詳しく紹介したい」と述べたままになっていました。今回、NHK 大阪制作の「探検ファクトリー」で放送された「東京北区 お札工場 新しいお札の最高峰印刷技術とは !?」を視聴し、ユーロ紙幣についても改めて考察する機会を得たため、併せてご紹介します。
多国間通貨としてのユーロ紙幣の独自性
ユーロ紙幣（下写真）は、日本の紙幣とは異なり、複数の主権国家による共通通貨という、歴史上前例のない試みの成果です。その特徴は以下のとおりです。
・裏面にユーロ圏の地図が描かれているのですが、加盟国の増減に応じてデザインが変更します。また「ユーロ」の表記は複数言語でなされており、近年キリル文字が追加され、３段表記となりました。
・文化的多様性に配慮した中立的なデザインが採用されています。紙幣表面には窓や門扉、裏面には橋が描かれています。いずれもヨーロッパの歴史的な建築様式を反映したものですが、実在の建物は一つもありません。
・紙幣発行当時の ECB 総裁の署名が記されており、ドラギさんやテレビでもよく見かけるラガルドさん（フランス人、銀髪の女性）など、初代から４代目総裁までの署名が見られます。
・紙幣のサイズが５ユーロから 200 ユーロまで段階的に変化することで、識別しやすくなっています。慣れた人であれば、大きさだけでも判別可能です。
・高度な偽造防止技術が多数用いられています。公式ウェブサイト（注1）を参照すると、それらを詳しく見ることができます。
「探検ファクトリー」が明かす！ 日本の新紙幣製造の舞台裏と匠の技
今回視聴した NHK「探検ファクトリー」の特集は、新紙幣発行前の３月に放送されたものの再放送でした。番組では、日本で唯一紙幣を製造する機関である国立印刷局の工場を訪れ、新紙幣の製造工程、偽造防止技術、工芸官の役割と技術が紹介されていました。特に興味深かった点は以下のとおりです。
約 20 年ぶりにデザインが刷新された新紙幣の最大の特徴は、新たな偽造防止技術の導入です。世界初の３D ホログラムや高精細な透かし技術が採用され、偽造防止が強化されています。３D ホログラムは肖像が立体的に回転する仕組みです。透かしには白透かしと黒透かしがあり、紙の厚さによって図柄を表現しています。また、ユニバーサルデザインの一環として、アラビア数字を大きくして海外の方にも分かりやすくし、視覚障害者が触って判別できる識別マークも設けられています。（下写真もどうぞ）
製造工程も非常に興味深く、紙の製造にはアバカとミツマタの植物繊維を使用し、耐水性と独特の風合いを持つ紙が作られています。驚くべきことに、紙の製造段階から高精細な透かしが入れられています。印刷工程も複雑で、オフセット印刷、凹版印刷、凸版印刷を駆使してカラフルな背景や肖像を印刷されています。３D ホログラムは熱と圧力をかけて、剥がれないように貼り付けています。（下写真もどうぞ）
最後に
新紙幣が発行されてから約半年が経過しましたが、近年のデジタル決済の普及により、個人的には紙幣をほとんど使用していませんでした。しかし、今回改めて新紙幣を手に取ってみると、多くの工夫と技術が凝らされていることに驚きました。他国（例えば、ユーロやポンド）に比べて桁違いに偽造が少ない理由も納得できます（タイトル写真：注２）。番組では、工場に入る際の厳重なセキュリティチェックや、工芸員のメンバーや人数が国家機密であることも紹介されており、その厳重さに安心感を覚えました。今後は、デジタル決済における偽造にも対処するため、サイバーセキュリティーの強化が求められるでしょう。
−−−−
注１：欧州中央銀行本部、およびユーロ紙幣のホームページよりhttps://www.ecb.europa.eu/home/html/index.en.html
https://www.ecb.europa.eu/euro/banknotes/current/denominations/html/index.en.html#es2-100
注２：NHK大阪制作の「探検ファクトリー：東京北区 お札工場 新しいお札の最高峰印刷技術とは !?」より