元教授、ダイヤモンド・ライク・カーボンの驚きの特性を知る ― 複合材料・カーボン技術展訪問記: 定年退職170日目
本稿は、大阪産業創造館で9月13日に開催された「複合材料・カーボンフェア」の技術展に参加した報告の第2回目です。前回(9/15)では、振動減衰効果のある炭素繊維強化プラスチックや、多様な素材の分散による機能性コーティング剤について紹介しました。また、その際にカーボンナノチューブや導電性カーボンなどのカーボン素材についても触れましたが、今回はダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)の話に焦点を当てます。
今回の技術展に参加するまで、私は DLC という素材を知らず、恥ずかしながらその略称から教えていただきました。もちろん、ダイヤモンドやグラファイトについては多少の知識があったものの、それらの間の構造で両者の特性を併せ持つ DLC については全くの無知だったのです。
訪れたブースは、(株)プラズマ・イオン・アシストという会社のものでした。この会社は、様々な特性を持つ機能性 DLC を製造しており、アルミからゴムなどの有機物まで、ほとんどの素材にコーティングが可能と聞き、強く興味を持ちました。ただし、上記のように DLC 自体の構造や性質について理解していなかったため、まずは基本的な説明を受けました。DLC とは、同じく炭素原子から作られているダイヤモンドとグラファイトの中間を意味し、すなわち「ダイヤモンドのような性質を持ったカーボン膜」とのことでした。
次に、性質に密接に関連する炭素原子の軌道についてです。ダイヤモンドは sp3 混成軌道からなる結晶構造を持ち、グラファイトは sp2 軌道からなる結晶です。DLC はその両方の軌道を有しており(割合により軌道や化学構造も変わる)、水素も含んでいます(下図:水素は赤で示す)。
見た目や性質も大きく異なります。ダイヤモンドは、最も硬い物質で研磨材などに使われ、グラファイトは軟らかく薄く剥がれ易いので粉末は滑らかで潤滑材に用いられます。一方 DLC の性質は( sp3 と sp2 軌道の割合、結晶状態、水素量、置換生成物により変わります)、それらの中間で幅広い特性を示します。例えば、DLC はステンレス鋼や超鋼合金よりも硬く、非常に低い摩擦係数を持ち(下図))、耐摩擦性や耐食性が高いです。また、酸素や水や紫外線を通さず、絶縁性(ダイヤとカーボンの中間)を持ちます。そして DLC は地球上に無尽蔵に存在し、環境、地球に優しい、無害な生体親和性素材です( DLC は固形物で大気中や水中に溶出することはありません)。
担当者が最も強調されたのは、これらの特性を持った DLC を様々な素材にコーティングできるという点でした(タイトル写真(チタン、ウレタン、ゴムへのコーティング)、下写真も(注1))。密着力に優れ、20μm の厚膜で、立体・大面積部品からマイクロ金型まで均一な成膜ができるとのことです。ちなみに、同社でのコーティング技術は一般的な高温処理による CVD や PVD 法ではなく、低温での表面処理法(プラズマベースイオン注入・成膜法:常温からの処理が可能)なので、その結果、熱に弱いアルミや樹脂、ゴムなどにもコーティングが可能とのことでした。
さらに同社(PIA)では、ナノダイヤを含んだ DLC( DLC の中にナノ単位のダイヤモンドが混載)、フッ素樹脂並みの絶縁性と滑り性を有する絶縁強化型 DLC、逆に電池などに使える導電性 DLC、高撥水・高離型性を両立する DLC、さらには各種ガス(フッ素、シリコン、窒素、ボロン)を導入した機能性 DLC も開発しているとのこと。下図には、その一例を示します。
今後も、このような新技術の動向には注目していきたいと思います。それでは、また。
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注1:同社から会場でいただいた資料、HP から