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元教授、カバーの魅力にはまる (その1): 布施明と坂本冬美(定年退職159日目)

前回は「食品(アイス)と化学工学の融合」についてお話ししましたが、今回は「歌手の融合(?)」、すなわちカバーソングについて語らせてください。カバーソングに関しては、以前、King Gnu の井口理さんが aiko さんの「カブトムシ」をカバーし、デュエットで一緒に歌ったことも紹介しました(note, 6/27)。


一時期、様々な歌手のカバー曲を聴くことに夢中になっていました。カバーとは、アーティストが自身のオリジナル曲ではなく、リスペクトする他者の楽曲を独自に解釈して歌うことです。世の中には星の数ほどカバーアルバムが存在しますが、カバーを聴くことで、その歌手の本当の魅力や実力が見えてくるように感じます。同時に、原曲の新たな一面を発見できるのも楽しみです。例えば、桑田佳祐さんが美空ひばりさんの楽曲を歌ったり、八代亜紀さんがジャズに挑戦したり、椎名林檎さんがユーミンをカバーしたりと、その組み合わせは無限に広がります。


私がカバーの魅力を知るきっかけとなったのは、布施明さんのカバーアルバムでした。「君は薔薇より美しい」や「シクラメンのかほり」といったヒット曲で知られる布施さんは、NHK紅白歌合戦に25回も出場している、まさに日本を代表する歌手の一人です。特に私の世代では「積み木の部屋」でしょうか、カラオケでもよく歌いました。彼は、ポップスからフォーク、ジャズ、洋楽まで、幅広いジャンルの曲をカバーしています。

2008年にリリースされたアルバム「Ballade」には、槇原敬之さん作曲の「世界に一つだけの花」が収録されています(下写真)。槇原さんのオリジナルは軽やかでしたが、SMAP が歌った際には「ナンバーワンにならなくていい、オンリーワンになればいい」という強めのメッセージが伝わりました。しかし、布施さんが歌うと、同じ歌詞でも「みんなそれぞれに頑張っているんだ。そのすべてが尊い」というメッセージに聞こえるのです。これは、布施さん自身の解釈が加わっているからでしょう。同じくカバーしている「チャゲ&飛鳥」の「SAY YES」も、原曲とは全く異なる優しさ溢れるバラードに仕上がっています。

「Ballade(布施明)」、私の iPhone から


もちろん一番大切なのはオリジナルですが、それを歌い上げる力を持った歌手とのコラボレーションが非常に大切です。歌い手が弱ければ単なるカラオケになってしまいますし、逆に歌手の個性が強すぎれば原曲の魅力が失われてしまいます。しかし、両者がうまく組み合わされれば足し算に、そして場合によってはそれが掛け算となり、いわゆる相乗効果で全く新しい世界が創造されるのです。


今日はもう一人、演歌の大御所、坂本冬美さんについてもご紹介します。猪俣公章さんの弟子としてデビュー前からその才能を認められ、以来、演歌一筋に活躍しています。「夜桜お七」は、イントロを聴いただけで思わず口ずさんでしまいます。そんな彼女が15年ほど前から様々なジャンルの楽曲に挑戦し始め、「Love Songs」シリーズとして6枚のアルバムを発表しています。中でも「また君に恋してる」はその代表曲の一つです。

今回ご紹介したいのは、中島みゆきさんのアルバム「臨月」に収録されている「雪」のカバーです(タイトル写真:注1)。この曲は、愛する人を失った悲しみを歌った、究極の別れの歌です。中島みゆきさんの楽曲は多くの歌手にカバーされていますが、坂本冬美さんの「雪」はその中でも珠玉の一つです。

私は、NHK BSP の「中島みゆき 〜豪華トリビュートライブ&貴重映像〜」という番組でこの曲を聴き、衝撃を受けました(下写真)。坂本さんは番組内のインタビューで「昔は歌う勇気がなかったが、歳を重ねてきたことで、いい思い出として振り返ることができるようになった」と語っていました。その結果、この曲が「冬美節」全開の演歌として生まれ変わっており、カバーの醍醐味である相乗効果を感じさせてくれました。(注2)

NHK BSP の「中島みゆき 〜豪華トリビュートライブ&貴重映像〜」(注1)
坂本冬美さんの「雪」(注1)


まだまだご紹介したいカバー曲がたくさんあります。次回は、忌野清志郎さん率いる「RCサクセション」の洋楽カバーアルバム「COVERS」から始めたいと思います。

では、また次回をお楽しみに!

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注1:  NHK BSP 「中島みゆき 〜豪華トリビュートライブ&貴重映像〜」より
注2:「歌縁」(うたえにし)- 中島みゆき RESPECT LIVE 2015 にも収録されています。  


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