アンデス高地の知られざるフラミンゴの世界: 高速ダンスとフラミンゴミルクの謎 @最後の楽園 (元教授、定年退職253日目)
約 40 年前、水戸の実家での年に一度の「大遠征」外食は、車で2時間かけて福島県いわき市の「メヒコ」というシーフードレストランに行くことでした。この店では特大のエビフライや大量の蟹が入ったカニピラフ(下写真)などを楽しむことができ、その価値は長時間の移動を厭わないほどでした。その後、近くの大洗に支店ができたことで、遠征はなくなり、そちらに行くようになりました。
国際学会でのカニピラフとフラミンゴ
約 10 年前、つくば市での国際学会に研究室の学生たちと参加した際、つくばにもメヒコの支店があることを知り、皆で訪れました(つくばの広さを甘く見ていて、タクシー代が予想以上にかかってしまいました)。私は、学生たちがエビフライの大きさに驚いたり、食事を楽しむ姿を見ているだけで満足でした。ただ、蟹を食べ始めると全員が殻をむくのに夢中になり、会話が途絶えてしまうのが難点でした(笑)。彼らが食事と同じくらい、むしろそれ以上に舞い上がったのが「メヒコ」名物のフラミンゴでした。動物園で見たことはあっても間近で見ることは珍しく、学生たちはその優美な姿と綺麗な羽に魅了され、ガラスにへばりついて見ていました。(下写真もどうぞ)
天空の湖に舞うアンデスのフラミンゴたち
今回はそのカニピラフではなく、フラミンゴの世界です。NHK BSP 番組「hot spots 最後の楽園:フラミンゴ集う深紅の湖」からの紹介ですが、フラミンゴの生態を全く知らなかった私にとって、発見の連続でした。生息地、食生活、越冬法、求愛行動、繁殖から子育てまで、詳細な観察映像が示されました。(タイトル写真、下写真:注1)
アンデス山脈標高 4,000 メートルのコロラダ湖には、5万羽のコバシフラミンゴが生息しています。湖は赤と白に色分けされ、白い部分は塩の結晶、赤い部分は特殊なプランクトンの群生によるものです。海水の5倍という高塩分濃度のため魚は生息せず、フラミンゴは独特な形をしたくちばしで赤い好塩性藻類の仲間のプランクトンを濾して食べています。このプランクトンの色素がフラミンゴの羽を鮮やかに染めるのです。(下写真もどうぞ)
気温が −30度まで下がる厳冬期、夜明け前の凍てつく湖では、フラミンゴたちが互いの体温で寒さをしのぎます。凍結した湖面で滑って四苦八苦する姿には、思わず微笑みがこぼれます。(下写真もどうぞ)
求愛は高速ダンス?!
夏の初め、繁殖に向けた求愛の儀式が始まります。前回紹介したハリモグラの列車行動とは似ている部分もありますが、形式は全く異なり、美しく厳しいものでした。この儀式では、オスとメスが集まり、足並みを揃えて行進するところから始まります。その中で自分の動きと完全に一致した相手がパートナーとなります。最初は穏やかな歩調ですが、次第に信じられないほどの速さとなり、まるで映像が早送りされているかのような光景になります。(下写真もどうぞ)
赤い湖で繰り広げられる華やかな求愛のパーティーは次第に熱を帯びます。しかし、一歩のミスも許されず、ステップを踏み外したフラミンゴは群れから外れていきます。また、先頭がぬかるみにはまると、後続が次々と転倒する事態も発生します。このような壮大な儀式が、長い年月を経て脈々と受け継がれてきたのです。
新しい命の誕生とフラミンゴミルク
求愛の儀式から約3ヶ月後、一斉に雛が誕生します。親鳥がくちばしを雛の口につけて真っ赤な液体を与えますが、これは「フラミンゴミルク」と呼ばれる特別な栄養液です。この液体は哺乳類の母乳に匹敵する栄養価を持ち、過酷な環境に適応したフラミンゴが進化の過程で獲得した驚くべき能力です。(下写真もどうぞ)
雛は孵化から数週間で自力で歩き始め、4年後には次世代を担う成鳥へと成長します(下写真)。この天空の湖で、フラミンゴたちは絶えることなく命をつないでいくのです。
この番組を通じて、私は過酷な環境に適応し、独自の生存戦略を確立したフラミンゴの生態を学ぶことができました。また、真っ赤な湖面、深い青空、そして優美なピンク色のフラミンゴたちが織りなす映像は、素晴らしいものでした。
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注1:シーフードレストラン「メヒコ」のホームページより
http://www.mehico.com/
注2:NHK BSP番組「hot spots 最後の楽園:フラミンゴ集う深紅の湖」より